Juntae Kimが露わにする飛びっきりの異端性

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AFFECTUS No.411

2月26日配信No.407「LVMH PRIZE 2023年セミファイナリスト発表」で、二つのブランドにフォーカスしたが、今日はその一つ「Juntae Kim」について改めて取り上げたい。まずは簡単ではあるが、デザイナーJuntae Kimの歩みについて述べることから始めよう。

Kimは韓国で生まれ、ソウルでウィメンズウェアのBA(学士)取得した後、ロンドンへ渡り、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)でメンズウェアのBAを取得、2019年に同じくロンドンの名門セントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)にてMA(修士)を取得している。

セントラル・セント・マーティンズ在学中、Kimは「リーバイス(Levi’s)」とカプセルコレクションを制作する3人の学生の一人に選ばれていた(残り2人は、Charlie ConstantinouとPip Paz-Howlett)。Kimは、韓国伝統の柄から作ったモチーフをGジャンのポケットなどに取り付けたデザインを発表。Gジャンの形は基本的にスタンダードだが、中にはヘムラインがレオタードを連想させるカッティングもあった。歪な要素をベーシックアイテムの中に取り入れるKimの手法は、学生の頃から現れていたようだ。

セントラル・セント・マーティンズを卒業した後、Kimは有名メゾンでキャリアを積むことなく、2021年に自身の名前を冠したシグネチャーブランドを設立し、デビューコレクションである2022AWコレクション「Romantic From Freedom」を発表する。その後、2023SSコレクション「Garden Punk」、2023AWコレクション「Romantic Poetry」を発表し、デビューから3シーズンを経過している。1990年代後半は卒業後すぐにブランドを立ち上げるデザイナーが多かったが、昨今のデザイナーで、すぐさま自分のブランドを立ち上げるケースは珍しい。

以上がKimの歩みになる。

次からは具体的にコレクションを取り上げ、Kimのデザインについて考えていきたい。

注目したいのは2022AWコレクション「Romantic From Freedom」である。ブランドサイトに書かれていた解説によると、このコレクションはヴィヴィアン・ウェストウッド(Viviennewest Wood)初期のコレクション「Freedom is not reality」にインスパイアされたデザインを発表しているようだ。他のデザイナーの名を具体的にあげて、コレクションのインスピレーションにしたことを明らかにするのは非常に稀だが、私は面白い試みだと思う。

ファッションデザインは文脈的なデザインである。どんなに新しい服であっても、過去の服からの影響を免れることは不可能だ。どんなアヴァンギャルドなデザインであっても、それはこれまで発表されてきたリアルな服があったからこそ誕生したデザインである。もし、過去から現在に至るまでアヴァンギャルドな服しか存在しなかったならば、奇想な造形は誕生しなかったに違いない。ファッションは、アートのように文脈的に発展したきたものなのだ。

話をKImのコレクションに戻そう。

2022AWコレクションは服装史に見られるコルセットなどを身につけた5人のパンクメンバーが、自由を求めてラブ&ピースを歌うという想像から発想していた。加えて「ラモーンズ(Ramones)」、「レッド ツェッペリン(Led Zeppelin)」などといった1970年代や1980年代のUKパンクバンドのスタイルも発想源としている。

実際にルック写真を確認してみると、ジーンズやレザーブルゾン、激しいブリーチを施したGジャン、ウェスタンなスウェードシャツ、スリムなジーンズやスラックスが登場し、パンキッシュなディテールを披露しているアイテムが確認できる。例えばジーンズは、ウエストと脇線から大腿部内側に向かって、デニム生地をつまんだピンタックが何本もジーンズの表層を走っている。硬い生地のデニムをピンタックでつまむとは、なんと難儀なことをするのだと私は思ってしまう。Kimは偏愛的なディテールを度々披露する。それが服にパンクな味付けを施す効果を発揮していた。

2023AWコレクション「Romantic Poetry」は、1950年代のプレッピーをKimが解釈したデザインであり、発表されたルックのいずれにもトラディショナル香りを漂う。このシーズンでもピンタックをつまんだジーンズは発表され、いずれのアイテムにも偏愛ディテールが確認できる。中でも異端なデザインは襟にファーを取り付けたブルゾンである。

このブルゾン、まず一目で奇抜であることに気づく。ブルゾンの身頃や袖から、なにやらフェザー状のものが無数に飛び出しているのだ。最初、私はフェザー状のモチーフをブルゾンに取り付けて、このディテールを作り上げたと思っていたのだが、私の想像は完全に間違っていたことが、Instgramのブランドアカウントに投稿されたブルゾンのアップ写真で判明する。

ブルゾンから飛び出すフェザーディテールは、取り付けたものではなく、ブルゾンの生地を先端が丸くなった細い棒状にくり抜き、そのくり抜かれた生地が無数に垂れ下がっていたものだった。私はこのようなディテールを初めて見る。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)に通じるセンスを感じるほどに、Kimの異端性に驚く。

伝統のメンズファッションに、Kimはオリジナリティにあふれた解釈を加えていく。MA-1ブルゾンは、上部が盛り上がったようにマッスルな厚みを作り出し、胸部にはまたも先端が丸い棒状のくり抜いたカットを3本ずつ施し、袖に取り付けられたポケットはポーチバッグのようなサイズに巨大化し、またも棒状のくり抜きカットを加えている。

シャツにはイカの足のようにイレギュラーなヘムラインをデザイン、ジーンズは激しく錆びたような加工を施し、ピンタックで装飾性を加味する。

もし、これらの奇抜なディテールがなければ、Kimの服は1980年代など昔の香りが感じられる、レトロでエレガントなトラッドウェアになっていたに違いない。それだけでも私は十分魅力的な服に見えた。しかし、Kimの精神はそんな真っ当な服作りを許さない。とにかく伝統のファッションに異端性を投入しなければならない。伝統を破壊するというよりも、伝統を捻れさせるといった方が正しい。それほどに一般的美しさとは距離が離れたデザインである。

トラディショナルなメンズウェアをベースに、アンチトラッドとも言えるディテールやカッティング、素材の加工を加えていく。私はKimのコレクションを見ていると、LVMH PRIZEのファイナリストに残るのではないかと改めて思う。それほどに強烈なパワーを感じ始めた。保守的なメンズウェアを変革していくJuntae Kim。またアジアから注目の才能が登場した。

〈了〉

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