AFFECTUS No.412
エレガンスとは「ジマーマン(Zimmermann)」のためにある言葉だ。ニッキー・ジマーマン(Nicky Zimmermann)とシモーネ・ジマーマン(Simone Zimmermann)の姉妹が1991年に設立したオーストリアブランドは、類稀な美しさを2023年3月のパリで披露する。優雅なフレアシルエット、儚げなレース、極上の庭園を描くプリントテキスタイル、ドレスを覆い尽くすフリル、甘さと優しさに満ちたピンクやベージュといったカラー。先ごろ発表された2023AWコレクションは、ジマーマンの魅力を余すことなく体験できる、素晴らしいクオリティだった。まるでオートクチュールコレクションのように、私たちを夢の世界へと案内する。
ジマーマンで注目すべきアイテムは、もちろんドレスに違いない。しかし、この最新コレクションで、私はジマーマンの高貴なエレガンスを、ドレスよりも魅惑的に見せるルックを発見する。それがデニムアイテムをスタイリングしたルックだった。
通常であれば、ジマーマンが誇る貴族的な品格ある美は、ドレスでこそ最上の輝きを放つ。しかし、対極のデザインと一つにすることで、そのデザインが持つ良さがより際立つことがある。それがジマーマンとっては、デニムルックだった。
ガーゼ素材のように薄く柔らかい素材で仕立てた、ベージュのブラウス型ワンピースは、ウェストから下をレースで切り替え、繊細で美しい。ジマーマンはこのロマンティックなワンピースにパンツをレイヤードするのだが、そのパンツは上品で淡いブルーに色落ちしたジーンズだった。優雅なワンピースと対極と述べて間違いないアイテムだ。
だが、ややワイドシルエットのブルーボトムとカジュアルなスタイリングが、フェアリーなワンピースの美しさをいっそう際立たせ、今コレクションで発表されていたドレスよりも、私には魅力的に見えてしまったから不思議だ。
さらにデニム濃度を高め、Gジャン・パンツ・ジャケットのすべてを色落ちしたデニムで作るという、究極のカジュアルルックも発表される。インナーには胸元が大きくU字型に開いた黒いレースのトップスが、ジーンズにインする形でスタイリングされているが、レーストップスと足元のシューズにジマーマンならではのエレガンスを感じるぐらいで、スタイルそのものはアメリカンカジュアルの王道、デニムオンデニムスタイルである。しかしながら究極のデニムルックでも、ジマーマンの高貴なエレガンスはドレスよりも輝いて感じられた。
とても不思議な現象だが、私は今回と同じ体験を7年前にも経験する。そのことを、2016年11月に公開した「美しくない服を着ることで現れる個性」に書いていた。このタイトルでは、女優の木村佳乃がフェミニンとは対極の、ストリートなビッグシルエットで作られた「ヴェトモン(Vetements)」を着た姿を写したファッションフォトの魅力について述べている。伝統のエレガンスと別世界の、可愛さや綺麗さとは別の感覚を備えたヴェトモンを着ることで、彼女だけが持つエレガンスが立ち上がっていたように思えたのだ。その姿は、ドラマで何度も観てきた木村佳乃の姿よりも輝いているように私は見えた。
このヴェトモン体験と、今回のジマーマンのコレクションから改めて思うのは、その人、そのブランド、そのデザイナーだけが持つ個性を最大出力で表現するには、デザイナー(ブランド)の個性を対極の要素と並列することが必要なのではないかということだった。
アヴァンギャルドな造形を作る才能があるならば、抽象造形のドレスをデザインするのではなく、ベーリックでリアルなアメリカントラッドを基盤にしてデザインすることで、特異なフォルムを作り出すセンスがいっそう輝く。たとえば、アメリカントラッドのアヴァンギャルド化を図るトム・ブラウン(Thom Browne)が該当する。
貴族的エレガンスを究極のカジュアルであるデニムと融合させた時、ジマーマンの個性がより際立つ。この現象は、「自身の個性を対極の個性と融合させた時、魅力は研ぎ澄まされる」という、ファッションデザインにおける有効なアプローチの一つを証明する。ジマーマンの最新コレクションは、久しぶりにファッションデザインの構造を読む面白さを体験させてくれた。彼の地は、やはり世界最高のクリエーションが発表される場にふさわしい。パリは、様々なデザインスキルの宝庫でもある。
〈了〉