AFFECTUS No.413
代表作は靴だが、服も手がけて高い評価を得ていくブランドが存在する。日本人デザイナーのブランドに目を向ければ、古くは熊谷登喜夫による「トキオ クマガイ(Tokio Kumagai)」、現在なら三原康裕による「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison Mihara Yasuhiro)」の名があげられる。シューズブランドのイメージが強いブランドが服を発表することに、当初は疑問を持たれたことがあったかもしれない。だが、デザイナーは自身の創造性で服づくりの実力を証明していく。
スウェーデンのストックホルムにも、同様の足跡を辿るブランドがあった。マックス・シラー(Max Schiller)とジョナサン・ハーシュフェルド(Jonathan Hirschfeld)は2013AWシーズンに「エイティーズ(Eytys)」を立ち上げ、スニーカーブランドとして人気を高めていったが、ウェアラインの発表を始めたことで魅力的なトータルブランドへと成長した。私にとってエイティーズは、スニーカーよりも服に目が向いてしまうブランドである。
1月に発表された2023AWコレクションは痺れるクオリティだ。メンズ・ウィメンズがルック写真で同時発表された最新コレクションを一言で表すならば、クール。この言葉こそが最もふさわしい表現であり、エイティーズのスタイルを端的に表す。
着こんで色が褪せて生まれた模様なのか、それとも抽象的なグラフィックなのか。黒いブルゾンが素材の表面に見せる燻んだ表情は渋くカッコよく、ルーズな黒いワイドパンツを穿く女性モデルはクールな眼差しで正面を見据える。
チルデンセーター、ジーンズ、チェスターコート、Pコート、トラックスーツのボトムを組み合わせたスタイリッシュなスタイルには、トラディショナルなテイストが香り、だがヒップホップなテイストにも溢れている。ワークでありクラシックであり、ストリート。エイティーズは多様なスタイルを、ダークさも滲ませながらシャープに仕立てる。
メンズとウィメンズ、あえてどちらに魅力を感じたかと言えば、私はウィメンズだった。「かわいい」、「きれい」、「かっこいい」、女性ファッションのエレガンスすべてを吸収して、全スタイルをクールにデザイン。一つのスタイルに縛られない女性像が浮かび上がるカッコよさが迫ってくる。
チルデンセーターに似た黒いトップスは着丈が短いのか、それとも裾を捲り上げているのか、女性モデルは腹部を覗かせ、スレンダーなシルエットの黒いパンツは、膝下あたりから取り付けられたファスナーを開いてパンタロンのようなシルエットを形作り、足元にはフラットな黒いブーツを履いていた。
複数の時代、複数のスタイルが一つのスタイルの中で混じり合う。そんな感覚が迫るが、そこに破綻はない。黒を基調にした色展開、シャープでクールなイメージを抱かせるシルエットとスタイリングによって、コレクションに統一感を持たせているからだ。
今の私はどちらかと言えば、調和が崩れたデザインの方が好みである。脈絡ない複数のファッションを繋ぎ合わせ、その時に生まれる違和感がパワーとなって、私には魅力的に映る。しかし、エイティーズを見ていると、統一されたコレクションの魅力を再認識する。「このファッションもやはりいい」といった具合に。
また、今回のエイティーズに惹かれた理由の一つに、極端なオーバーサイズがなかったことがあげられる。身体に張り付くほど細いシルエットではない。むしろサイズ感は量感があると言った方が正しいだろう。だが、身体のラインを完璧に覆い隠すビッグシルエットとは違う。2015年ごろから続くビッグシルエット時代に、私は少し食傷気味になっている。そうかといって、スキニーシルエットが見たいのかとういうと、それも違う。身体を締め付ける細さは、今はまだ少し古さを覚えてしまう(いずれ再来するだろうが)。ボリュームはあるがスレンダーに見える。これがエイティーズのシルエットで、ビッグシルエットのネクストシルエットを望んでいる私に響いた。
メンズルックも一つあげたい。赤いVネックのノースリーブニットは、ネックラインに沿って白いラインが描かれ、このアイテムもまたチルデンセーターを思わせる。男性モデルは赤いノースリーブニットを直接肌に着用し、ニットベストの裾を黒いパンツにタックインするフォーマルなテイストのスタイリング。一方で頭には黒いキャップを被り、ストリートとクラシックの両方がカジュアルウェアで表現される面白さを感じるルックだった。
アヴァンギャルドな抽象造形にインパクトは感じても、新しさを感じない現在の私にとって、エイティーズのようなデザインにこそ新しさと心惹かれる個性を感じる。ストックホルムで誕生したスニーカーブランドはとびっきりにクールな服を作るモードブランドへと成長した。足元から生まれる新しいファッションが、世界にはある。
〈了〉