Marie Adam-Leenaerdtのデビューで思い出す懐かしきベルギーモード

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AFFECTUS No.417

2023AWシーズンのパリで、一つの新ブランドがデビューを飾っていた。縦のラインを強調したシルエットをモードなカッティングで構築し、スカートの丈は膝を隠すコンサバテイストで、「ハイダー アッカーマン(Haider Ackermann)」のデビューコレクションに通じるグレーが印象深い色使い……。

いずれも懐かしいようで、新鮮に感じられる。それは、私がモードの世界に熱中し始めた頃に、世界を席巻していたベルギーモードを思い出させた。ブランドの名は「Marie Adam-Leenaerdt」。本格的なコレクションデビューは、3月に発表された2023AWコレクションとなり、まさに誕生したばかりのニューブランドだ。

Marie Adam-Leenaerdtは、シャツやコートなどリアルなアイテムをベースに、衿幅を広くしたり、肩を盛り上がらせたり、一見ベーシックウェアに見える服の中に大胆なデザインを絞り込んで表現する手法は「マルタン マルジェラ(Martin Margiela)」や「アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)」、「ユルギ・ペルスーン(Jurgi Persoons)」など、懐かしき伝説のベルギーモードを私にオーバーラップさせる。

このようにアントワープ王立芸術アカデミー出身のデザイナーたちの名が次々と浮かんでくるが、Marieはアカデミーと並ぶベルギーもう一つの名門、ブリュッセルのラ・カンブル(La Cambre)を2020年に卒業した、現在27歳の若手デザイナーだ。

Marie Adam-Leenaerdtのコレクションは、先ほどから何度も述べているようにかつてのベルギーモードを連想させる。しかし、懐かしさを感じせるにも関わらず、新しさを感じたのは、近年の最新ブランドでこの文脈のデザインを披露するブランドが、ほぼ見れれなかったことが理由だろう。

私がMarie Adam-Leenaerdtに魅力を感じる一つに、コンサバティブなムードがあげられる。だが、決してコレクション全体がコンサバなのではなく、所々にココ・シャネル(Coco Chanel)のエレガンスが滲むルックが現れるのだ。ただし、シャネルジャケットやパールネックスレスなど、コンサバルックの象徴がストレートに登場するわけではない。

ツイードとフリンジを用いたロングシルエットのドレスは、ココ・シャネルとは全く異なるデザインだ。しかし、重厚でシックな素材をゆったりとしたシルエットで仕立てたドレスは、これはポジティブな意味で言うのだが、ミセスブランドの趣が感じられる。溌剌とした若さとは違う、成熟した美しさの服がランウェイを歩いていく。

モデルの起用に関しても人種や年齢は多様で、ロングレングスのドレスやコートが登場する点も合わせて、私はマルジェラとの共通点を感じる。ただし、初期のマルジェラほどコンセプチュアルではなく、もっとリアルでクラシックなスタイルに着地している。

正直に言えば、Marie Adam-Leenaerdtにファッション史の文脈を更新する斬新さは感じない。ただ、これが私の見たかったモードウェアの一つだったとも言える。自分が熱中するきっかけになったものを、時間を経て再び見たい思いに駆られることはないだろうか。リアルな服のようで、リアルな服ではない。目を覚ましながら見る現実世界の夢。シュールでダークなコレクション。私にとってベルギーモードとはそんな服だった。私は、Marie Adam-Leenaerdtのデビューコレクションを見て、もう一度あの時代の服を見たいと思っていた、自分の隠された思いに気づかされた。

久しぶりに『装苑』2001年10月号を本棚から引っ張り出したくなる。この装苑は、アントワープ王立芸術アカデミーの歴史と教育を現地での取材を交えて伝える特集記事が掲載され、私の中でベスト装苑と呼びたい内容で、この先も大切に保管し続け、何度も読み返すだろう。

人の心を動かすものは、とびっきりの新しさとは限らない。

〈了〉

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