公式スケジュールの発表から距離を置いたピーター ドゥ

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AFFECTUS No.422

「いったい、いつになったら発表されるのだろう」

続々と最新コレクションが発表された2023AWシーズン。各都市で開催されたファッションウィークが閉幕し、4月に入っても2023AWコレクションの発表がなかった「ピーター ドゥ(Peter Do)」。もしかしたら、今シーズンはスキップするのかと思われた4月下旬、ついにその時が訪れた。

ドゥはここ3シーズン、ランウェイショーで最新コレクションを披露していたが、2023AWコレクションは以前と同じルック写真での発表となった。ただし、ドゥは過去の方法を踏襲したわけではない。1枚の写真に1つのスタイルが掲載されるのが通常のルック。翻って今回のドゥは、1枚の写真に9つのスタイルを掲載し、39枚の写真が発表されたため、合計39枚×9スタイル=351スタイルという大量な数に達した。

このコレクションのテーマは、1年中毎日着用できる「ピーター ドゥ」を提供するというもの(365日着るためには14ルック足りないが)。興味深いのは、アイテム数の少なさだ。400に迫る大量のスタイルを発表した2023AWコレクションだが、実際は20型ほどのアイテム数で構成されている。ドゥが得意とするカッティングを駆使して、服一点一点に多様な表情を作り出し、着こなしとアイテムの組み合わせで、圧倒的ボリュームのスタイルを実現させる可変性あるデザインを実施していた。

私はモードの鮮烈さは好きだし、常に新しさを期待している。ただ、大量のモードウェアを毎日着るよりも、お気に入りの服が最小限そろっていれば、それだけで十分ではないかと思うことがある。結果的にボリュームが増大してもいいのだが、毎シーズン少しずつ、その時に魅了されたアイテムを買い足し、数年、十数年かけてワードローブを完成させることに渋い面白さを感じる。

実際にそれだけの時間を掛ければ、トレンドと合致しない服も現れるだろう。だが、そんな時は寝かせておけばいい。モードは常に変化していくもの。3年前は「ダサい」と思った服が、今年は「カッコいい」と価値観が変わることは珍しくない。この変化のダイナミズムこそ、モードの醍醐味だ。

今回のドゥは、モードにアンチテーゼを表しているように思えた。ランウェイショーを開催しなかったことも、私がそう感じた理由の一つになる。「ヴォーグ (Vogue)」によれば、 2023AWシーズンのニューヨークファッションウィークで発表しなかった理由について、ドゥは今も詳細は話していないそうだ。

ランウェイショーはモードに欠かせない伝統の発表形式で、過去何度も感動的なショーが発表された。若手ブランドは、デビュー後しばらくはルック写真で発表していても、ビジネス的に成長し、市場での人気が高まっていけば、否が応でもショー開催への期待が高まる。だが、すべてのブランドがショー形式と相性がいいわけではないし、デザイナーがストレスを感じるのであれば、ランウェイに固執する必要はない。ファンが最も望むことは、ショーを見ることではなく、ブランドの継続なのだから。

今回発表されたドゥのコレクションは、原点に立ち返るデザインだと言えよう。近年のドゥはデニムの発表、メンズウェアのスタートなど、新しい取り組みを次々に行い、ショーの開催のその流れに乗ったものだった。だが、2023AWコレクションではジーンズは登場せず、色使いもブランドの象徴であるブラック&ホワイトのモノトーンカラーに絞ることで、ドゥ最大の武器であるモードなカッティングが強調されていた。

私は2023AWコレクションを見て、初期の「ピーター ドゥ」を見るような思いになる。そこに新しさはなかったのかもしれない。だが、ドゥを初めて見た時のクールでシャープなスタイルが、今改めて見ることができた気分になり、退屈や不満は一切なかった。

正直に言えば、驚きという点では物足りないのも事実だ。ただし、時折ブランドは原点に立ち返った、既視感のあるコレクションを発表してもいい。進化ばかりが、ファンの心をとらえるとは限らない。時には過去を甦らせることも、モードには必要だ。個人的欲求を言わせてもらえば、私はキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)には、初期に発表していたモードなワークウェアを今一度発表して欲しいと願っているほどだ。

次回の2024SSシーズン、ドゥはファッションウィークの公式スケジュールに復帰する可能性もあるそうだが、私にとっては復帰するかどうかは重要ではない。どんな形であれ、発表時期が遅くなってもかまわないので、ドゥの最新コレクションが見られるなら満足だ。モードの常識が、常に正しいとは限らない。答えはデザイナーそれぞれにとって違うのだから。

〈了〉

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