10年に1度訪れるファッションの大転換

AFFECTUS No.423

本日はブランドやコレクションをピックアップするのではなく、ファッション史的な観点をテーマに話を進めていきたい。最新コレクションの発表が終わり、一息入れられる時期だからこそ、書いてみたい内容になる。

2014SSシーズンにデビューしたデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の「ヴェトモン(Vetements)」が引き起こしたストリートウェア旋風は、2010年代を代表するムーブメントだった。ストリートウェアのように、ファッション史を振り返った時、世界中に多大な影響を及ぼすスタイルやブランドが、10年に1度現れていることに気づく。

例えば2000年代ならエディ・スリマン(Hedi Slimane)のロック&スキニースタイル、1990年代ならヘルムート・ラング(Helmut Lang)によるミニマリズムといった具合に。もちろん、各年代を代表するデザイナーやブランドが一つとは限らない。ゴージャスなファッションが世界を席巻した1980年代は、下着ルックを発表したジャンポール・ゴルチエ、「ミラノの3G」と呼ばれたジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferré)、ジャンニ・ヴェルサーチェ(GianniVersace)の活躍が華々しい。

スタイルそのものがスポットライトを浴びる年代もある。1970年代はフォークロアやヒッピーなど、自然回帰を果たしたファッションが時代の主役だった。高田賢三の「ケンゾー(Kenzo)」は、ヒッピースタイルの先駆者となったブランドである。

アメリカとソ連の激しい宇宙開発が展開された1960年代では、マリー・クワント(Mary Quant)やアンドレ・クレージュ(André Courrèges)のミニスカートが、最先端スタイルとなって人々の注目を集めた。

さらに時代を遡り、1950年代は第二次世界大戦が終わり、質素な生活を強いられてきた人々は華やかさを求めていた。そんな時代のニーズに応えたのが、1957年にニュールックを発表したクリスチャン・ディオール(Christian Dior)だ。ニュールックは、決して新しいファッションではない。ウェストを強くシェイプさせたフィット&フレアシルエットは、戦前に見られたクラシックなスタイルである。だが、戦後の人々はクラシックなエレガンスを望んでいたのだ。

しかし、ディオールのニュールックに怒りを滲ませる一人の女性クチュリエがいた。それが、ココ・シャネル(Coco Chanel)である。裾を引き摺るほどのスカートや、コルセット着用が常識だった当時の女性ファッションに、シャネルは下着に使われていたジャージ素材を使用して女性に自由をもたらし、男性だけが穿いていたパンツを自ら穿いて事業を起こすことで、新しい女性のファッションと女性が働くという新しい価値観を生んだ。

ディオールのニュールックは、旧来の価値観から解放してきたシャネルのスタイルを否定するようなもので、シャネルは強烈な怒りを覚えてカムバックを果たす。復帰当初のコレクションは、パリでは受けいられなかったシャネルだが、戦後の世界をリードする大国となったアメリカでは、シャネルの機能的でスポーティなエレガンスがアメリカ人の心を捉え、大人気となった。アメリカでの人気をきっかけに、シャネルのスタイルは世界で賞賛を浴びることになった。

ファッション史を駆け足で振り返ったが、10年に1度、その年代を代表するデザイナーやスタイルが誕生することは感じてもらえたと思う。それでは、2023年の今はどうだろう。私の意見では、世界中を熱狂させるデザイナーやスタイルは未だ生まれていないと思っている。

2000年代のディオール オム(エディ・スリマン)や、2010年代のヴェトモン(デムナ・ヴァザリア)のような影響力を及ぼしているデザイナーとスタイルが現在あるかと言われたら、そこまでの強烈な存在感が現代のモードからは感じられない。嵐の前の静けさ、小康状態という表現がふさわしいように思える。

だが、もうそろそろ現れていいタイミングだ。次世代のデザイナーとファッションが。

ではどんなファッションが現れるのだろう。もちろん、完璧な答えはわからないが、人々の暮らしを見つめることは次代ファッションを考える上でのヒントになる。そのことはファッションの歴史が物語っている。今、人々はどんな暮らしをしていて、その暮らしに疑問や怒りは感じるか。もしくはその暮らしを、より良いものにしたいと思うのか。現代のライフスタイルや価値観を見つめることが、モード誕生のきっかけになる。

新しいファッションは、必ずしも未知とは限らない。既存のファッションに新しい解釈を加えたファッションが、モードに変貌することも多い。ヴェトモンが打ち出したストリートウェア自体は、それ以前から普及していたスタイルだった。ヴァザリアはストリートウェアに二つの要素を掛け合わせる。それが、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)×アグリー(醜い)×ストリートウェア=新時代のファッションというものだった。

そうして、過剰なほどの装飾性(アグリー)、ビッグシルエット(マルジェラからの引用)のストリートウェアが生まれ、世界を熱狂で覆い尽くした。そこにはヴェトモンのデビュー以前に、ノームコアと呼ばれる究極にシンプルなスタイルがトレンドになった時代の変遷も関係している。ノームコアへのカウンターとなる形で、ヴェトモンスタイルが生まれたとも言える。モードとは、常にカウンターの要素を含むものだ。

私はドラマを昔からよく観ているのだが、近年大きな変化を感じているのが物語の進行スピードだ。以前なら、一つの大きな謎が提示され、それが最終回になって明らかにされるパターンが多かったのだが、近年は大きな謎と思われた謎が3話ほどで解決し、新しい謎が生まれる。その新しい謎も3話ほどで解決し、また新しい謎が生まれて、物語が進行していく。こういうスピーディな展開は、以前には見られなかった。

時間を惜しむようにスピーディに暮らし、一つの話題がSNSによって世界中に瞬く間に広がり、シェアされていく何もかもが速い現代。それが私が思う2023年の今だが、捉え方はもちろん他にもあるはずだ。

そろそろ、世界を熱狂で包み込むファッションが生まれる予感がする。

〈了〉

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