農夫と革新とトゥーグッド

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AFFECTUS No.425

ロンドンのファッションには、革新と伝統が息づく。「チャールズ ジェフリー ラバーボーイ(Charles Jeffrey Loverboy)」は調和という概念を笑うが如く、自身の創造性すべてを惜しみなくコレクションで曝け出し、「クレイグ グリーン(Craig Green)」は服と建築の融合を連想させる、硬質で迫力ある造形のメンズウェアを完成させる。

「イー トウツ(E. Tautz)」はクラシカルな美を野暮ったく見せることでは、世界最高峰の才能を持ち、「アーデム(Erdem)」は古き良きエレガンスを極上に仕立て上げた一等星のドレスを、毎シーズン見せてくれる。

クラシックとアヴァンギャルド、双方から類稀な才能が飛び出す都市のロンドンにおいて、本日のテーマに挙げたブランドは前者に属するだろう。フェイ・トゥーグッド(Faye Toogood)とエリカ・トゥーグッド(Erica Toogood)の姉妹が、自分たちの美意識を注ぎ込む「トゥーグッド(Toogood)」の服には奇抜さなど微塵も存在しない。

トゥーグッドを私なりに一言で表すなら、「洗練された農業着」になるだろう。

アイテム自体に、農作業を連想させるワークウェア要素を強く感じるわけではない。むしろアイテムの基盤は、ジャケット、トラウザー、シャツなど、ドレスライクな服が多い。では、どこに私が農業着の香りを感じたかというと、それはシルエットになる。

肩から直下し、ウェストラインの存在を忘れさせるストレートシルエットのシャツ、股上が深く、大腿部周りを緩やかに覆い、豊かなドレープを見せるパンツなど、布と肌が接する面積を最小限に抑え、身体に束縛を施さないトゥーグッドの服は、ドレスライクなアイテムに、丸みを帯びた量感のシルエットを取り入れて作られている。

同じビッグシルエットでも、ストリートウェアが人間の身体を直線的に覆うなら、トゥーグッドは人間の身体を曲線的に覆う。双方のスタイルともボリューミーな形だが、ストリートウェアとトゥーグッドでは服の立体感の構造がまったく異なる。

丸みのある柔らかく緩やかなシルエットが、農業に従事する人々が着用する服のシルエットを、私にイメージさせた最大の要因だが、ドレッシーな服がデザインのベースになっているために泥臭さや野暮ったさは皆無で、農業着とは対極の上品さが漂う。色使いも淡いトーンのグリーン、やや燻んだベージュやブラックなど、どの色も服の形と同様に柔らかく優しく、色にも丸みを感じるほどの淡さだ。このようなトゥーグッドが持つ特徴は、カジュアルアイテムの王様であるTシャツも優雅に見せていた。

装飾性が抑制された綺麗な生地を、シンプルにデザインするブランドは日本にも多い。「オーラリー(Auraee)」、「コモリ(Comoli)」、「マーティ&サンズ(Maatee &Sons)」、「アプレッセ(A.Presse)」など、いま日本国内で人気のドメスティックブランドの服には都会的ニュアンスが感じられるが、トゥーグッドには農夫が服を凛々しく装うような美しさが現れ、シンプルデザインの中でも異なる文脈に位置している。

シンプルさを特徴とする服は、差別化を図ることが非常に難しい。だが、服を作るテクニックと、スタイルイメージの組み合わせ次第で、オリジナリティを確立することは可能だ。

革新とは、常に大胆かつ迫力があるものとは限らない。静かに穏やかに持たされる革新もある。そのことを、トゥーグッドはシャツ1枚で証明する。エレガントに装う農夫が、高層ビル群が連なる現代都市を歩いていく。

〈了〉

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