AFFECTUS No.429
ロンドンの名門、セントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)在学中から注目され、デビューすると瞬く間に人気デザイナーへと駆け上がったキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)は、自身のブランドと並行して複数のプロジェクトを進行することでも知られている。
「アフィックス ワークス(Affix Works)」では、ロンドンを拠点にステファン・マン(Stephen Mann)、タロウ・レイ(Taro Ray)、マイケル・コッペル(Michael Kopelman)と共に、ワークウェアが持つ無骨的な美しさを生かしたモダンウェアを発表し、207AWシーズンからは「マッキントッシュ(Mackintosh)」と「マッキントッシュ 0001(Mackintosh 0001)をスタートさせ、シーズンごとにナンバリングされたコレクションを発表した。
そして今、コスタディノフのプロジェクトとして最も注目されているのは、2018年から始まった「アシックス(Asics)」とのコラボレーションだろう。第1弾となる「「GEL-BURZ1(ゲル バーズ1)」を皮切りに、発売するや否や世界中で大きな反響を呼ぶコラボスニーカーを次々と発表する。2020年にコラボレーションは終了するが、今度はアシックスのインライン部門でキュレーターとして、デザインディレクションを行う新たなパートナーシップを築く。
人気と話題を呼んできたコスタディノフとアシックスのプロジェクトだが、5月18日に新たなプロジェクトが、コスタディノフの公式Instagram(@kikokostadinov)から発表された。それが、コスタディノフとアシックスによる初のアパレルライン「アシックス ノヴァリース(Asics Novalis、以下ノヴァリース)だ。
ノヴァリースでは、コスタディノフに加えて、「キコ コスタディノフ」のウィメンズ・ディレクター、ディアナ・ファニング(Deanna Fanning)とローラ・ファニング(Laura Fanning)も参加する形で制作される。デビューコレクションは、今年10月開催のパリ・ファッションウィーク期間中に発表するという、モード界の文脈に乗った本格的なもので、期待が今から高まる。ドーバーストリートマーケット(Dover Street Market)など世界のセレクトショップで取り扱われる予定ということで、デビューコレクションの発表が非常に待ち遠しい。
アナウンスでは、ノヴァリースは「ゴープコア」のトレンドに沿ったウェアであることが述べられていた。ゴープコアとは、トレイルランニングやクライミングなどのテクニカルなスポーツウェアを普段着にするスタイルを指し、「ゴープ(Gorp)」という単語は、2017年に『New York Magazine』のサイト「The Cut」に登場した造語になる。「エッセンス(SSENSE)」にはゴープコアをテーマにした記事(「進化するゴープコア」)が発表されており、このスポーツスタイルをより詳しく知りたい方は読んでいただきたい。記事内では、コスタディノフにも言及されている。
ノヴァリースは、落ち着いた色調のカラーを中心に、ロゴを使用しないミニマルデザインが展開されるということだ。ミニマルな服を好み、かつスポーツ&モードにまだまだ可能性があるのではないかと思い、新たなスポーツの文脈を組んだ服を希望していた私にとっては、まさに希望に叶う最新プロジェクトだと言えよう。
初期のコスタディノフは、カッティングを駆使してモード化したワークウェアに特徴があったが、次第にアヴァンギャルドな方向性へシフトし、シルエット自体はシンプルでも、シルエットの枠内の構造が複雑に入り組んだデザインを見せ、「美しい」という感覚とは別の美意識を私たちに訴えてきた。
コスタディノフの奇妙なスタイルに対して、私は初期のワークウェアスタイルの方が好ましく、デザインの転換は残念に思っていたが、次第にコスタディノフの提唱する奇妙さが気になり始め、近年では自分の中の新しい感覚が目覚めたようで、面白くなってきた。コスタディノフの気持ち悪さが、気持ちよくなり始めているのだ。この新感覚の開花が始まったタイミングで、ゴープコアを組んだミニマルウェアをコスタディノフが手掛けると言うのだから、期待を高めない方が無理というものだ。
もちろん、実際にコレクションが発表されるまで、過度の期待は禁物だ。それでも私はキコ・コスタディノフとアシックスの新プロジェクトが待ち遠し。10月にデビューコレクションが発表された際には、改めてこの「アフェクトゥス(AFFECTUS)」で取り上げたい。気持ち悪さが気持ちいいミニマルデザインが見られるのだろうか。いったいどんな服が見られるのか、楽しみに待ちたい。
〈了〉