5月23日、赤坂の草月会館「イサムノグチ石庭」で開催された、「オールモストブラック(Almostblack)」2023AW/2024SSコレクションのショーを取材してきた。発表から少々時間が経過してしまったが、本日はショーを見ての感想を述べていきたい。
会場となった「イサムノグチ石庭」は、ビルの中に作られた石庭の趣で、非対称性に美しさを見出す日本の美意識が漂う。会場を歩くモデルたちの服装は、西洋伝統のクラシックな空気感に満ちたコートやテーラードジャケット、カーディガンが目を惹く。しかし、シンプルでクリーンという現代主流のベーシックウェアを、オールモストブラックが披露するわけがない。最初に注目したアイテムは、ブラックのロングジャケットだ。
渋みを讃えたロングジャケットのショルダーラインは、なだらかで自然なラインを描き、身体を包み込むボックスシルエットで作られていた。端正な趣を醸す1着に、異端性を表すのは左右両身頃のフロントに連なる数々の穴。
美しく仕立てられたはずのクラシックウェア。その美しさをあえて壊すようにあけられた穴に、伝統のエレガンスとは違うエレガンスを打ち立てようとするパンクマインドが襲いかかる。
穴をあけたディテールは、他のアイテムでも展開されていた。
全身をブラックウェアで覆ったスタイルはシックではあるが、ルーズなシルエットのボトムと、トップスの穴あきディテールが、ここでも端正なエレガンスを崩す。
鮮烈な赤いカーディガンは裾がほつれ、グランジな香りが漂う。
オールモストブラックの服は、先述のジャケットやカーディガンがそうであるように、MA-1ブルゾン、ライダーズジャケットなど、ファッション史の名品と言えるアイテムが基盤となっているが、名作アイテムが元来持っているバランスを崩すようにデザインされ、バランスの崩された服は暗さを帯び、ダークなムードが漂う。
私が最も印象に残ったルックは、グラフィカルなトップスだった。このアイテムシリーズにこそ、私はオールモストブラックの独自性が詰まっているように思えた。
とりわけ、今コレクションで最も目を奪われたのは、淡い色調のカラーを用いたこのトップスを着用したルックである。
金髪のヘアをオールバックで撫で付け、首元にはおおぶりのネックレス。クルーネックのトップスは大きくショルダーがドロップし、身体のラインを完璧に隠すオーバーサイズシルエット。量感にあふれたクルーネックトップスは、ボリューミーなブラックパンツと共に、男性モデルが歩くたびに布地が畝る。また大胆なグラフィックは、大きな青い波と赤い波が入れ乱れたようにも映り、私は人間の感情の畝りを想像し、布の畝りと連動していく。
世間の常識とは距離を置きながらも、決して破滅的ではないし、破壊的でもない。むしろ、知性と理性を持ちながら人々とは違う道を歩く人間。その姿には「クリーンなアウトロー」という、矛盾する表現の人物像が浮かび上がった。だが、矛盾を感じる人物像が頭の中に生まれたからこそ、このルックから今コレクション最大の魅力が迫り、オールモストブラックのオリジナリティを最も強く表すものに思えた。
「服を作るのではなく、人間を創る」
そういう一面が、モードにはある。服を通して人間像を見せ、その人間像に心が揺さぶられる。このモードの楽しみを、感じられたのがこのグラフィカルなトップスのルックだった。
オールモストブラックのデザイナー、中嶋峻太はいったいどんな人間を思い描き、コレクションを制作しているのだろうか。人間の深淵に興味を持っているのだろうか。心の奥に潜む暗さを愛しているのだろうか。ショーが終わり、数日を経た今、この文章を書いているうちにそんなことが気になり始めた。やはり私は、そのブランドならではの人間像が見られた瞬間が好きだ。
Official Website:almostblack.jp
Instagram:@almostblack_official