アット コレクティブがデザイナーの個性を磨く

AFFECTUS No.437

現代においてコラボレーションは、ファッションビジネスに欠かせない手法となった。どんなブランドが、どんなデザイナーと組み、どんなアイテムを発表するのか。最新コラボレーションのニュースは、瞬く間に世界へと広がっていく。巨大スポーツブランドとストリートウェアのデザイナーが発表するスニーカーは常に注目され、「H & M」や「ユニクロ(Uniqlo)」が発表するコラボレーションは、話題を振りまいてきた。

ラグジュアリー、スポーツ、カジュアルなど、コラボレーションは様々なカテゴリーのブランドで行われる今、注目したいブランドが一つある。いや、ブランドと称するのは正しくないだろう。プロジェクトと呼ぶ方が適切だ。それが「アット コレクティブ(At.Collective)」である。

このコラボプロジェクトは、1963年創業の歴史を持つデンマークのタンナー(皮を革に鞣す製造業者)、「エッコ レザー(Ecco Leather)」が立ち上げたもので、シーズン毎に複数名のクリエーターと共に様々なコラボアイテムを発表する。2024SSシーズンに発表された「シーズン03」と呼ばれる最新コレクションでは、キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)、ピーター・ドゥ(Peter Do)、ニナ・クリステン(Nina Christen)、アン・ホルトロップ(Anne Holtrop)の4人が参加した。

私がアット コレクティブに面白さを感じたのは、コラボパートナーの人選だった。現在、ウェブサイトで発売中のアイテムに、コスタス・ムルクディス(Kostas Murkudis)の名を発見して、私はテンションが上がってしまった。

「なんで懐かしい名前なんだ!」

ドイツのドレスデン出身のムルクディスは、ヘルムート・ラング(Helmut Lang)の最初のアシスタントとして知られ、7年間をラングのもとで過ごしたのち、1993年に独立する。1996年からはパリ ファッション ウィークに参加して、コレクションを発表していく。しかし、次第にメディアで取り上げられる回数が減るにつれ、ムルクディスに対する関心が薄れていった。

ラングのもとでキャリアを積んだこともあり、ムルクディスのデザインはシンプルだ。ただし、クールで近未来感にあふれたラングのミニマリズムとは異なり、ムルクディスのデザインは柔らかみと優しさが感じられ、私は朴訥としたミニマリズムという印象を抱く。

これは失礼な言い方になってしまうが、「思い出になっていたデザイナー」が、アット コレクティブとコラボレーションしていたことに、驚かない方が無理だった。しかも、ムルクディスが手がけたコラボアイテムを見ると、素晴らしいクオリティなのだ。

最も惹かれたのは、「Trapeze XL」と名付けられたビッグバッグ。カーフレザーを使用したフォルムは端正で、高さ42.5cm x 幅81.5cm x 奥行1.5cm のサイズ感は、男性の上半身をほぼ隠してしまうほど。それほどに巨大なバッグが、ポケットの形状を浮かび上がらせるバッグの表面が、唯一の装飾性と言っていい形で制作され、ミニマリズムの極意を味わうような感覚だ。

アット コレクティブのサイトには、他にもロンドン注目の若手メンズデザイナーであるビアンカ・サンダース(Bianca Saunders)、「バレンシアガ(Balenciaga)」で11年間、ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)の右腕を務め、「クロエ(Chloé)」のクリエイティブ・ディレクターを2016年2020年まで務めたナターシャ・ラムゼイ=レヴィ(Natacha Ramsay-Levi)など、ベテランから中堅、若手と幅広く起用し、人選が実に渋い。

サンダースとレヴィが手がけたアイテムを確認すると、ムルクディスと同様にシンプルにデザインされていた。アット コレクティブはシンプルをテーマにし、コラボを行っているのだろうかと思っていると、その考えが誤りであることに気づく。それを証明したデザイナーが、先ほども名をあげた2024SSシーズンに参加するコスタディノフである。

アット コレクティブの最新コレクション発表に先駆け、6月14日にコスタディノフは自身のInstagramアカウントで、コラボアイテムの写真を公開する。

明らかになったスニーカーとバッグは、シンプルな形に対して、素材は一癖も二癖もあった。特にスニーカーは、従来のコスタディノフらしい不気味さと、アット コレクティブのコラボアイテムに共通する美しいシンプルさが一体化したデザインである。スニーカーの素材には凹凸のあるボーダーが使用され、アッパーに靴紐がなく、ドローコードでフィット感を調整するディテールとフォルムに仕上がっている。

ソールにも、足の裏から機械のパーツが飛び出しているような、これまた不思議なディテールが確認でき、奇怪な生物を見る思いだ。ただ、不気味ではあるが、コスタディノフのシグネチャーブランドよりも、スマートな印象を受ける。

アット コレクティブのInstagramアカウントを覗くと、ピーター・ドゥの手がけたスニーカーも公開されていた。コスタディノフとは打って変わり、代名詞である独創的かつシャープなカッティングのクールな黒いスニーカーで、これぞピーター・ドゥという出来栄えだ。

コラボレーションは、相手ブランドの世界観を尊重しなければいけない側面があるが、アット コレクティブはデザイナーの個性を最大限に活かす形でコラボを行う。そうして生まれたコラボアイテムは、デザイナーの世界が新たな形で見られた嬉しさを感じさせ、テンションを高める。

次にどんなデザイナーと組むのだろうか。懐古的な思いで言わせてもらえるなら、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)を招聘し、ベーシックウェアを作ってもらえないだろうか。アット コレクティブのコラボは、そんな実現不可能であろう想像を掻き立てる。今後の展開が楽しみなプロジェクトだ。

〈了〉

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