コンセプチュアルなシャネルが登場

スポンサーリンク

AFFECTUS No.444

クラシック、ガーリー、アメリカントラッド、ミニマリズム、ストリート、スポーツ、ワークといった具合に、ファッションにはスタイルを表す言葉がいくつもあり、「シャープなワーク」などのように形容詞を加えていけば、スタイルイメージはさらに拡張していく。

その際、スタイルの一般的イメージと対極の形容詞とセットにすれば、文脈的新しさを生み出すことも可能だ。例えばクールなイメージが一般的なミニマリズムを、「フェミニンなミニマリズム」と表現すれば、甘さが香るミニマルウェアが想像されてくる。

このようにスタイルの種類は豊富と言えるが、ブランドを象徴するスタイルは、たいてい一種類を指し、今回取り上げる「シャネル(Chanel)」ならば「コンサバ」が該当する。ブランド一つに対して一つのスタイル。それが、これまでのモードにおける常識だった。

しかし、近年その常識が崩れ始めてきたように思う。その考えは、7月に発表されたシャネルの2023AWオートクチュールコレクションを見ることで、改めて実感することになった。

このコレクションでシャネルが披露したのは、多様な女性のファッションだった。淑女的な装い、メンズクラシック、甘いフォークロア、可憐なガーリースタイルと、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)時代のシャネルでは見られなかったスタイルが、いくつもランウェイを歩いた。現在のアーティスティック・ディレクター、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)は、格式を重んじるシャネルに実験精神を持ち込む。

ただし、やみくもに様々なスタイルを発表したわけではない。シャネルの代名詞と言える一つが、シャネルツイード。このメゾン伝統の素材を用いて、メンズクラシックやフォークロアを仕立てることでコンサバな香りが生まれ、スタイルは多様であっても、コレクション全体のムードは統一されていた。

頭部にピンクのバンダナを巻いた、1970年代のヒッピーを思わせるルックも登場するが、ボトムにはシャネルツイード製のロングスカートを合わせ、「シックなヒッピー」というムードを醸し出す。

また、ムードの統一にはシャネルツイード以外のコンサバ要素も用いられていた。代表的なルックは、チョークストライプ素材のパンツルックだ。クラシカルなメンズスーツの生地を使用したパンツは、実にマニッシュ。しかし、ウェストラインは高く設定され、ハイウェストパンツとなっていたために、ウィメンズのコンサバファッションと言える外観に仕上がっていた。また、同じルックのトップスに使われた半袖シャツは、カラフルな色彩のフラワーモチーフを贅沢に縫い付け、オートクチュールらしい緻密さが感じさせる一方で、袖の形はパフスリーブだったために、コンサバティブな香りが濃くなっていた。

今回のシャネルは、クラシックやガーリースタイルを、コンサバ要素を盛り込んだ素材・シルエット・ディテールなどを取り入れてデザインしていた。そのため、多様なファッションでありながら、どのスタイルもこれぞシャネルという古き良き美しさが滲んでいた。

「現代の人間を、一つのスタイルに縛る必要はない」

まるで、そんなメッセージを発するようなコレクションである。

年齢を重ねれば、自然と好きなファッションは変わる。若いころは「クロエ(Chloé)」を好んでいたが、今は「マーガレット ハウエル(Margaret Howell)」が一番。そんな変化が、もっと短期間で起きてもいいはずで、その変化は楽しむべきである。

気分が変われば、好きなファッションも変わる。その時、その瞬間、着たいと思う服を着て、装いたいスタイルを選べばいい。自分を縛るものが、必ずしも世間の習慣や常識とは限らない。人間は気がつかないうちに、自分自身の考えに囚われていることがある。

コンサバファッションを武器とするシャネルが、モードの定説に疑問を投げかける。コンセプチュアルな背景が潜む、古典的エレガンスが香るコレクション。それが、今回のシャネルである。

〈了〉

スポンサーリンク