今はパトゥがカワイイ

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AFFECTUS No.445

ジェンダーレスの概念がファッション界に浸透してから、男性と女性の境界を崩すスタイルが一気に増大し、ファッションウィークでもメンズとウィメンズを同時発表するブランドが増加していき、2024SSメンズコレクションでも、ウィメンズを発表するブランドが多かった。

ただ、以前は、メンズとウィメンズのデザインに共通点が多く見られ、同時発表のコレクションには統一感が感じられていたけれども、2024SSメンズコレクションでは、メンズとウィメンズのデザインに違いが顕著になり始め、同時発表するのではなく、別々に発表した方が適しているのではないかと思えるコレクションも見られた。

ジェンダーレスファッションがモードの文脈に刻まれても、一貫してウィメンズならではのエレガンスを発信し続けるブランドがある。それがギョーム・アンリ(Guillaume Henry)の手がける「パトゥ(Patou)」だ。

創業者のジャン・パトゥ(Jean Patou)が、ブランド「ジャン パトゥ」を設立したのは1914年。100年以上の歴史がある老舗ブランドと言えるが、1936年にジャンが49歳の若さで亡くなると、メゾンは継続されるが次第に力を失っていく。

「クリスチャン ディオール(Christian Dior)」3代目のデザイナーとして知られるマルク・ボアン(Marc Bohan)、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)、ジャン=ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)、クリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)といった、錚々たるデザイナーがクリエーションを手がけるが、ラクロワがメゾンを去ると、ジャン パトゥは活動停止に至る。その後はフレグランスだけが残り、ビジネスが続いたのだった。

メゾンの転機となったのは2018年。ラグジュアリー帝国「LVMH」が、ジャン パトゥをグループの傘下に収める。そしてアーティスティック・ディレクターに、「カルヴェン(Carven)」を復活させ、「ニナ リッチ(Nina Ricci)」のディレクターも務めたギョーム・アンリを起用し、ブランド名を現在のパトゥに変更した。

歴史はあるが、ブランド価値が落ちしてしまったメゾンを買収し、新進のデザイナーをディレクターに起用してブランド価値を高めていく。LVMH得意の手法が発揮された事例である。

そして新ディレクターとなったアンリは、長い眠りに落ちていたブランドを目覚めさせていく。

最新2024SSコレクションでも、彼の手腕は健在。アンリのパトゥには、大人と少女、二人の女性が姿を現す。モダンでクラシック、だけどガーリーでファンタジー。ミニスカートは快活でスポーティだが、シャープでシンプルなカッティングは都会的装いの香りがふんだんに漂い、ハイウェストのパンツは、スレンダーなシルエットと少し長めのレングスが脚を長く美しく見せる。

アーバンウェアと称したいルックがあるかと思えば、ビーズ刺繍を施したミニワンピース・コート・スカート・トップス、リボンタイとギャザーを用いた甘いミニワンピースも登場。ジャケットはパワーショルダーもあれば、ナチュラルショルダーもあり、黒いショートジャケットは、ナポレオンジャケットのように力強くありながらも、レングスがウェストラインよりも高い位置という極端な短さでかわいらしく映える。ミニワンピースは、トップス部分はタンクトップ型、スカート部分はマーメイド型であり、フリルによって裾が大きく波打ち、スポーティかつガーリー。

このように、2024SSコレクションのパトゥは、女性の中のフェミニンとマスキュリンを行き来するファッションが、矢継ぎ早に発表されていく。アダルトなルックも魅力のパトゥだが、今回のコレクションでは少女の夢をモードの舞台で表現したような、ファンタジーが滲むスカートやコートも非常に魅力的だった。爽やかで健康的な印象も抱いた2024SSコレクションである。

ジェンダーレスファッションは、男性の服と女性の服の境界を取り払った。だが、メンズ的要素、ウィメンズ的要素というのは、フェミニンなウィメンズ、マニッシュなウィメンズといった具合に、一つのジェンダーの中でも存在するはずだ。歴史あるメゾンのコレクションで、アンリは女性の中に潜む、対極に位置する二つのファッションの境界を曖昧化するという、モードのジェンダーレス文脈に新たな解釈を刻む。

好きなスタイルを自由に着こなす現代のカワイイを、ギョーム・アンリはモードの舞台から発信していく。

〈了〉

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