ファッションブランドに編集者が必要になる時代

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AFFECTUS No.446

「ファッションブランドは服を作るブランド」。今、その定義が揺らぎ始めていると思える瞬間がある。服を作り、販売するだけでなく、Instagramでブランドイメージを発信する一方で、ブランドサイトでは、哲学なりビジョンを伝えるコンテンツを発信するブランドが現れ始めた。

まるでファッション誌が果たしてきた役割を、ブランドが果たしているような現象だ。ファッションブランドには、デザイナーやパタンナー、生産管理、営業だけでなく、これからは編集者がマストな時代が来るかもしれない。ファッションブランドが服作りだけに集中する時代は、過去のものになりつつあり、ファッションデザイナーに求められるスキルも変化してきた。

7月20日、藤原ヒロシによる学校「FRAGMENT UNIVERSITY」の開校が発表された。事前選考(受講目的・志望動機の提出)を通過した限定50名を対象に、10月11日から半年間にわたって全8回の講義が開催される。もちろん藤原本人が教壇に立ち、日本のストリートカルチャーを先導し、現在も数々のコラボレーションを成功させている人物から、直接学べる絶好の機会と言えるだろう。

すでに特設サイトが公開され、8回の講義のテーマも確認できる。

WEBSITE:FRAGMENT UNIVERSITY

講義では、「ナイキ(Nike)」や「スターバックス(Sterbucks)」など、実際に藤原が行ったコラボレーション企業を招いて行う特別講義もあるということだ。

ちなみに受講料は132,000円(税込)となる。この金額を知り、どう思うだろう。私が真っ先に思ったのは「あれ?思ったよりも安い」だった。私は20万円以上、もしかしたら30万円もあるのではと思っていたぐらいだし、別途入学金のような費用もあると予想していた。しかし、現状ウェブサイトで確認できるのは、先述の受講料のみである。著名人が直接教えるスクールにしては、良心的な価格に思える。

藤原ヒロシという人物は、ファッションの見せ方・伝え方に頭抜けた才能と実力を持つクリエーターだ。彼の仕事を見ていると、ファッションデザイナーの定義を再考しなくてはいけない気持ちになってくるし、ニュータイプのデザイナーとして真っ先に思い浮かぶのは、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)だ。

現代のファッションデザイナーの仕事は多岐にわたる。以前なら、服作りに精通していることが重要だったが、今ではSNSにおける発信の重要性が増し、イメージ作りのスキルが鍵になってきた。作った服をどう見せるか、モデルのチョイス、ルックの撮影場所、フォトグラファーの選定などは、これまでもファッションデザイナーにとって重要な仕事だったが、Instagramがライフスタイルに欠かせないSNSになった現代では、ビジュアルの重要性はより高まっている。

また、ファッションに限らず、商品の購入やサービスを体験する前に、SNSなどインターネット上で情報収集することが当たり前になった現代の消費行動では、文章による情報発信の重要性も大きくなった。

しかし、そうは言っても、ファッションデザイナーとて万能ではない。見せ方と伝え方に関しては専門のクリエーターや企業に任せる選択肢もある。

日本に「コンタクト(Kontakt)」という会社がある。エッジなメンズファッション誌「ヒュージ(Huge)」(2014年休刊)で編集者として経験を積んだ川島拓人が、神田春樹と共に2015年に立ち上げた編集プロダクション会社で、「ブルータス(Brutas)」「ギンザ(Ginza)」といったファッション誌、「ユナイテッドアローズ(United Arrows)」の「アイディアズ(Ideas)」といったオウンドメディアを手掛け、ブランドの見せ方・伝え方に優れ、業界内から高い評価を受けている。

コンタクトはブランドからの依頼も多く、「オーラリー(Auralee)」や「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」では、ルックのクリエイティブ・ディレクション、ウェブサイトやコンテンツのコピーライティングなどを行い、ブランドの成長に大きな役割を果たしてきた。

現在、ブランドのイメージ発信で大きな役割を果たしているのはInstgramだが、ブランドサイトで読み物として面白いコンテンツを発表するブランドも登場している。過去に何度か取り上げた「アンドワンダー(Andwander)」は、アウトドアの面白さを伝える記事をアップするだけでなく、リアルイベントも開催して、アウトドアの面白さを伝えようとしている。また、「ビズビム(Visvim)」は、ブランドサイトの「Dissertaion」というコンテンツで、服作りのコンセプト、素材、工法など、ビズビムが考えていること、大切にしていることを、美しい写真とボリュームのある文章で紹介する記事をいくつもアップしている。

もし、今後メディア的な機能を有したブランドが増加するなら、ファッション誌のエディターが、ブランドのコンテンツエディターとして転職するケースが起きるかもしれない。その際、ファッションデザイナーは編集長的な役割も兼ねるだろう。ファッションを読む体験が、ファッションブランドからも発信され、メディア以外でも得られることが当たり前の時代が訪れれば、ファッションの面白さが一段と深みを増していくに違いない。

〈了〉

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