AFFECTUS No.447
ニューヨークブランドというと、ジャケットやパンツを軸にしたクールでアーバンなモノトーンウェア、スレンダーなシルエットのロングドレスなど、都会のライフスタイルにマッチするファッションが思い浮かぶ。だが、「スリーアズフォー(threeASFOUR)」は、伝統的なニューヨークブランドとは一線を画す。コレクションは実験的で、作風はむしろパリのブランドに近い。だが、パリのブランドではあまりお目にかかれない近未来感が濃厚に漂う。こうして見ると、ロンドンから誕生しそうなブランドにも思えてきた。
フューチャリスティックなスリーアズフォーだが、ブランドの設立は1998年と、すでに25年の歴史を持つ。短命に終わることも珍しくないモードブランドで、スリーアズフォーは四半世紀もの間、ビジネスを継続させてきた。しかも、かなり挑戦的かつ非現実的なデザインで。これは驚きを超えて、尊敬の念すら抱く。
7月に発表された2023AWオートクチュールコレクションは、スリーアズフォーの近未来感にあふれる非常にパワフルなデザインが展開された。「Parallel Universe Couture」と称されたコレクションが、私たちのファッションを強烈な推進力で次世代のステージへと引っ張り上げる。
「服とは布地を用いて完成させるもの」
スリーアズフォーは、服の定義に揺さぶりをかけていく。
透明なチューブの中に、いくつもの小さなライトを入れた管を連結させたドレスは、私たちが思い浮かべるファッションとはまったく別の代物。未来を見据えるニューヨークブランドは、次第に人間の造形についても再考する。
左肩にシルバーの円盤を引っ掛けているトップス、スカート部分はマーメイシルエットでクラシックだが、左右の肩は大きく曲線的に膨らみ、宇宙を舞台にした映画に登場するキャラクターたちが頭に被ってそうな、流線的フォルムのヘルメットを被ったドレスルック、蜂の姿を連想させる、ヒップが大きく膨らんだロング丈のトップス、まるで宇宙の生物をお腹に宿し、今にも生まれそうに大きく膨らんだ腹部の先端が開いたフォルムデザイン。
モデルの身体の上で、素材が膨らみ、畝り、人間の体のために作られた服とは思えない造形を形づくり、それらのアイテムのほとんどがシルバーで染色されている。
人間の身体を問い直すコレクションは、過去にも発表されてきた。最も代表的なものと言えば、「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」が1997SSシーズンに発表した「こぶドレス」だろう。
女性モデルの身体のいたるところが大きく膨らんだストレッチ素材を用いたドレスは、ある意味、スキニーシルエットのシンプルウェアと言える。だが、ドレスを着る身体そのものが歪に形作られているために、身体にフィットするシルエットというシンプルなデザインにもかかわらず、異形のデザインへと変貌していた。
こぶドレスと形はまったく異なるが、デムナ・ヴァザリアが「ヴェトモン(Vetements)」や「バレンシアガ(Balenciaga)」で発表してきたビッグシルエットと強烈なパワーショルダーも、人間の身体そのものをデザインしたファッションと言える。
近未来的なアプローチといえば、「イリス ヴァン ヘルペン(Iris Van Herpen)」も忘れてはならない。オランダの「アーテズ芸術学院(ArtEZ Institute of the Arts)」で学んだ未来派デザイナーはテクノロジーをフル活用し、クラシカルなオートクチュールドレスを未来のファッションへと変えてきた。
スリーアズフォーの2023AWオートクチュールコレクションを見ていると、ヘルペンの世界観と共通点が見られるが、服の造形に注目するとコム デ ギャルソンに近い。いや、アヴァンギャルド成分は、川久保玲の歴史的逸品より強いかもしれない。スリーアズフォーの2023AWオートクチュールコレクションは、想像を掻き立てる。地球から遠く離れた惑星のエレガンスを、現代の地球の技術を用いて具現化したデザインが、私の中に新しい感覚を芽生えさせていく。
心地よさを感じるものが、新しいファッションとは限らない。時には醜さを覚え、怖さも迫ってくる服が、未来のファッションを示唆することもありえるのだ。スリーアズフォーは規格外の想像力と創造性で、世界の常識に揺さぶりをかける。
〈了〉