AFFECTUS No.448
先日、とあるブランドの2024SS展示会を訪れた時、PRの方と「今、注目しているブランドは何ですか?」という話になった。展示会を取材していると、この話題になることが多い。即答するのが、なかなか難しいテーマで、いつも答えに窮してしまう。それでも答えるとなると最近の私は、「ネームセイク(Namesake)」の名をあげることが多い。日本で扱っているセレクトショップはかなり限られており、日本のメディアでも言及されることは少ないが、今年の「LVMH Prize」でセミファイナリストに選出されたため、ご存知の方もいるだろう。今、私が最もインタビュー取材して記事にしたいのが、ネームセイクのデザイナーたちである。
ただ、PRの方と話している時の私は唸りながら考えこみ、逆に「気になっているブランドは何ですか?」と尋ねた。すると、教えてくれたブランドが「Story mfg.(ストーリー エムエフジー)」だった。さっそくInstagramアカウント(@storymfg)を教えてもらってチェックしてみると、メンズとウィメンズともに、これがとても印象深いデザインだったので、今回のAFFECTUSではテーマブランドとして取り上げたい。
第一印象で言えばノスタルジックになり、カントリーな味わいとも表現できる服が並ぶ。緩いシルエットが特徴だが、ストリート的ルーズさではなく、デザインは好きだけど、サイズが1サイズ上しかなかった古着を着ているようなオールドタッチ。懐かしさと優しさが込み上げてくるコレクションだ。
テーラードジャケットやコートなどのクラシックアイテムは皆無で、登場するブルゾンは使い古されたアウトドアブルゾンという雰囲気。アイテムはシャツやニット、カーディガンといったライトなものが軸で、ワンピースもドレッシーという言葉とは無縁のカジュアルさ。色展開にしても、黒やグレーといったクールな色はほとんど登場せず、ブルー系、イエロー系、オレンジ系、グリーン系といった色が、時間の経過を感じさせる柔らかな色味で登場する。
柄と刺繍も数多く登場し、それがStory mfg.の朴訥さを強調する。特に注目は刺繍だ。牧歌的なタッチの刺繍は、子供のために母親が手刺繍したようで優しく朗らかで、見ているだけで自然と笑顔がこぼれる。
ここで簡単ではあるが、ブランドの概要に触れよう。
Story mfg.の拠点は、日本代表サッカー選手の三苫薫が所属するクラブでも有名なイギリスのブライトン。デザイナーは、Katy Al-RubeyiとSaeed Al-Rubeyiの夫婦で、多くの染め職人・織り職人・刺繍職人と協力し、クラフト的な服を作り上げている。
また、Story mfg.は現代社会が抱える問題にファッションを通して取り組み、様々なマニフェストをブランドサイトに掲げている。天然繊維の切れ端を集めての再利用、動物製品を使用しない、素材や染料は肌に優しい成分のみを使用するなどプロダクトの生産面のみならず、人種差別への対抗も宣言し、ファッションから社会の課題に取り組んでいこうとする姿勢が印象深い。
過剰な大量生産と在庫の焼却処分など、サスティナブルな観点がファッション業界の課題となってくると、現代社会への課題に様々なアプローチで取り組むブランドが世界中で誕生した。私がモードの虜になり始めた1990年代後半のブランドでは、見られなかった動きである。
ファッションブランドにとってこのような社会性高い活動は、プロダクトそのものが魅力があることが重要だ。服に魅力がなければ消費者の支持は得られず、ブランドは継続が不可能になり、掲げたソーシャルなコンセプトの実行もできなくなるからだ。
Story mfg.はオリジナルのファッション性を持っている。性別、年齢に関係なく人間が記憶に持っている過去への郷愁や、自然を慈しむ心。それを布地と刺繍に表現し、衣服に袖を通した姿に芽生える「あたたかみ」を着用者だけでなく、Story mfg.を着た人間を見た人々にも与える。
Story mfg.では、モデルに濃い髭を生やした長髪の熟年男性も起用し、ノスタルジーが若者だけの特権ではなことを示す。
「おじさんだって、ほっこりした服を着たっていいじゃないか」
と、おじさんと言える年齢の私は思うのだ。似合う似合わないは関係ない。着たい服を着ることの面白さを、体感したいのだ。
少し熱くなってしまった。
この文章は、エアコンを付けずに書いているのだが、部屋の暑さと湿気が限界に来たので、ここで終わりとしたい。本当に暑い。
現代ファッションは、あらゆる境界を曖昧化し、進化を促す。Story mfg.は、過去の記憶と自然への愛が湧き出す服で、モダンブランドへと発展する。
〈了〉