AFFECTUS No.450
コペンハーゲン ファッションウィーク2024SSが開幕し、連日チェックしていると、2023AWシーズンと同様に面白いコレクションがいくつも発表されていた。今回はデンマーク王立アカデミーの学生による卒業コレクションも確認したのだが、Andreas Hermann Bloch(@andreashermannbloch)という学生のコレクションが印象深かった。Andreasはすでにデンマークブランド「ヘンリック ヴィブスコフ(Henrik Vibskov)」のスタジオで経験を積んでいるようで、卒業コレクションはクラシックやトラッドテイストのメンズウェアを、素材の加工とシルエットの崩しを入れて再構築し、保守的なメンズウェアの中で挑戦を試みていた。
2023AWシーズンでは、2023年2月8日公開「コペンハーゲンから時代を変えるブランドは誕生するか」、2023年2月12日公開「サンフラワーが披露する魅力的な普通」でコペンハーゲンファッションを取り上げたが、今回は先シーズンでも詳しく取り上げたかったブランドをテーマにした。そのブランドの名は、フィンランドを拠点に活動する「ラティミア(Latimmier)」である。
ブランドのクリエイティブ・ディレクターを務めるのはErvin Latime。彼はスカンジナビア最大の芸術大学であるアールト大学を2018年に卒業し、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)の「1017 ALYX 9SM」、デンマーク発の「エリオット エミル(Heliot Emil)」で経験を積み、2021年に自身のブランドであるラティミアを設立した。
コペンハーゲン ファッションウィークで発表されるブランドは、国内外ともにメディアで詳細に取り上げられることが稀で、情報量も非常に少ない。同じくラティミアもブランドに関する情報が極端に少なかったが、「Scandinavian MIND」というメディアで、ブランド設立を目前にひかえたLatimeのインタビュー “Ervin Latimer on running a responsible fashion brand” が掲載されており、彼のファッションデザインに対する姿勢が垣間見えて面白かった。
ラティミアのデザインは、性別に関係なく誰もが服を通じて自分のマスキュリニティを表現し、どのような服がマスキュリニティを実現することが可能なのかを、再定義する手助けをしたい旨が語られていた。実際にラティミアの2024SSコレクションを見ていると、Latimeの言葉が実感できる。
わずか18ルックという小規模のコレクションだが、実際の数字以上のインパクトを放つ。最大の注目アイテムは、メンズスーツの生地で仕立てたサイハイブーツのようなウェアだ。スーツのパンツを、ウェストから大腿部の中心あたりまでを大胆にカットしたアイテムで、これはボトムと呼んでいいのか、レッグウォーマーと呼んでいいのか、アイテムの名称に困ってしまう。
1stルックではライトグレーのジャケット、白いシャツ、黒いネクタイ、先述のサイハイウェアを着用し、服の下から覗く男性モデルの大腿部の肌が、メンズスーツとは思えないウィメンズウェア的な色気を醸す。しかもこのルックは、ジャケットと同じ生地で仕立てた、極端に幅広のベルトで上半身を拘束するように巻きつけ、両腕の自由を完全に奪い、SMテイストも漂わせていた。
コレクションは基本的に、クラシックとカジュアルを混ぜたスタイルで構成されているが、肌を見せるカッティングを取り入れたアイテムが時折登場し、通常のメンズウェアとは異なる雰囲気を放つ。
ライトグレーのスラックスと合わせているシャツは、左身頃はシンプルな白い生地で、右身頃はスカイブルー×白のストライプ生地で構成されていた。しかし、右身頃のストライプシャツは短冊状にカットされ、生地はすだれのように垂れ下がり、男性モデルの胸部や腹部、腕を晒してしまっている。
ストライプシャツを着用し、サスペンダーを用いてグレーのスラックスを穿いているルックも異様だ。スラックスの左脚側が先述のシャツと同様に、生地がすだれ状にカットされ、深いスリットの入ったロングスカートを思わせる形で、男性モデルの左脚を露わにしている。
もちろん、すべてのルックがウィメンズ的な肌見せがあるわけではない。黒い長袖インナーの上に黒い半袖Tシャツをレイヤードし、インナーの裾を黒いパンツにタックインしたスタイルは、ハードなスポーティルックを披露する。
スカイブルーの生地で仕立てたスーツと、青いストライプのシャツを合わせたスタイリングは、シャツのカフスが通常の何倍もの大きさで作られ、その巨大なカフスを折り返した着こなしは、メンズクラシックの王道を捉えた上でユーモアを表現していた。だが、そこにポップな空気は皆無で、非常にシックなスタイルとして仕上がっている。
「Scandinavian MIND」のインタビューにあった通り、ラティミアのコンセプトはマスキュリニティの表現にある。そのため、スーツを中心としたメンズウェアをデザインの基盤に置くことで、男らしさを表わそうとするのは当然の選択だろう。
性別に関係なく、マスキュリニティを表現することを可能にする服を作ることが、ラティミアの目標でもある。だからこそ、今回のようなサイハイウェアやすだれ状のカッティングによる肌見せ、パンツに深いスリットを入れてロングスカート風に脚の肌を見せるなど、ウィメンズウェアのアイテムやディテールを取り入れているのだと思われる。
結果、完成したコレクションには、ジェンダーレスデザインとは称することのできない異端性が立ち上がっていた。性別を超えた服というよりも、男性の持つ怪しさを引き出すためのツールとしてウェメンズウェアの要素を使っている印象すら抱く。私が感じた「男性の持つ怪しさ」というのが、ラティミアの目指す「男らしさ」なのかもしれない。
ただ強いだけでも逞しいだけでもない、けれども繊細な少年性を表わそうとしているわけでもない。男性だけでなく、女性にも潜むもの。ラティミアによるマスキュリニティの探求は始まったばかりだ。私は、Ervin Latimeが先導する、メンズウェアを超えた冒険を楽しみたい。
〈了〉