展示会レポート
Digawel 2024SS

毎年述べているような感想だが、今年の夏は暑い。昨年までは就寝時にエアコンを消していたのだが、今夏は暑さに寝苦しくなり、夜中に目覚めてエアコンのスイッチを入れることが多い。気がつけば額に汗が滲んでいる。

こんな気候のため、駅から展示会場へ向かうにも一苦労だが、真新しい服を見ると清涼感を覚えるのはなぜだろう。実に不思議な体験だ。その一方で、身体の反応は正直で頬を汗が伝う。

中目黒駅からしばらく歩き、地下に続く階段を降りると、そこが「ディガウェル(Digawel)」2024SSコレクションの展示会場だった。地下へ降りたにもかかわらず、高い天井と白い壁に囲まれた空間は、まるで天井から陽光が差し込んできたかのように朗らかで、時間の流れがゆったりと感じられ始めた。

ラックに掛けられた服には、ファッション伝統のオーソドックスなアイテムたちが並ぶ。

一目見るなり湧き上がってきた感覚は、古着に似た柔らかさと現代の服に感じられる新しさ。古いようで新しく、新しいようで古い、時間の捩れを感じるのだった。

ファッションには時間をデザインする側面がある。ハードな加工を施した色褪せたジーンズは代表的なアイテムになるだろうし、モードの歴史を振り返っても確認できる現象である。

時間を約20年前に遡るが、コンセプチュアルなデザインを得意とする天才フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)は、2002SSコレクションで朽ち果てた布によるミニレングスのドレスを発表し、翌シーズンの2002AWコレクションでは色彩に富んだ民族衣装が、シックな黒い生地によって徐々に覆われ、モダンなブラックウェアに生まれ変わるデザインを披露した。

このようにファッションでは、過去のコンディションを再現する手法を中心に時間をデザインすることが多く、チャラヤンは過去から現代へと時間を押し進める過程を視覚化し、時の流れを服の形へと昇華させた。

翻ってディガウェルの2024SSコレクションは、過去と現代が同時に存在する。誰かが大切に着ていた服の空気感と、誕生したばかりの服だけが持つ新鮮さ、その二つが交互に顔を覗かせる時間体験が訪れた。

ノスタルジーがほんのりと香る素材感と色味に見える一方で、クリーンなムードが至る所から立ち上がっている。しかし、注目すべきアプローチはそれだけではない。その一つが、シワ加工を施した素材を用いたアウターだった。

生地のシワは服が重ねた歳月を語る。だが、ディガウェルのアウターは通常のシワでなり得ない形状を示し、一種の抽象絵画のように、グラフィカルな表情を見せていた。このように過去を想像させる現象(シワ)をなぞりながら、通常の時間の積み重ねでは起こり得ない表情を起こすことで、過去と現代が同時に感じられる時間の捩れをデザインしている。

また、服のプロポーションも大きな効果を果たしていた。

展示会で実際に服を見てみると、たしかにオーソドックスなGジャンなのだが、レングスが短く、横にボリュームが取られ、袖の形も袖口でバルーン状に膨らみ、通常のGジャンでは見られないバランスで作られている。

他のアイテムも同様で、縦と横にプロポーションのアレンジを施し、そこにディテールやフォルム、切り替え線の位置などの変化が加わることで、標準的なベーシックアイテムとは異なる構造を作り上げ、新たなバランスの服に仕上げている。このテクニカルなアプローチが、伝統的な服でありながらもモダンウェアのイメージを完成させていた。

プロポーションの妙はスタイリングにも現れていた。アウター、インナー、ボトムと、縦と横のボリュームに変化を加え、巧みに組み合わせたスタイルを作り、そこには理知的な匂いさえ漂う。その静謐な香りが、王道のカジュアルウェアに清涼感を植え付けているように思えた。

現代は、NetflixやAmazon Primeによって映像コンテンツをリアルタイムで視聴することの価値が、以前よりも薄れてきた時代だ。いつでも好きな時間に、観たいドラマ、映画、アニメが視聴できる。最新の体験が、いつでも叶う。いわば、それは私たちが時間に縛られない生活を得られたとも言えないだろうか。だったら、24時間を服とともに生活する現代人には、過去や現代という時間軸に縛られないファッションがあってもいいのではないか。

ディガウェルは、服そのものの魅力がクオリティの高さとともに確実に迫ってくる。上質な品格があるにもかかわらず緊張感とは無縁で、毎日の暮らしを気持ちいいものにしてくれ、袖を通すことに味わいが滲む出す服。それが私の実感した、ディガウェルの2024SSコレクションだった。

展示会を見終えて、地上に出ると待っていたのはあの暑さ。だが、新しい服から得られた爽快さが、夏の熱気を少し和らげる。この余韻が心地よいから、ファッションはやめられない。

〈了〉

 

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