コルセットとメンズウェアを繋ぐプラダ 

スポンサーリンク

AFFECTUS No.452

今日はファッションからは離れた話題でスタートしよう。7月から放送開始のアニメ作品に、『わたしの幸せな結婚』という作品がある。これが、想像以上に面白い。当初、ラブストーリーが苦手な私は作品のタイトルを目にしただけで、視聴するのはやめようと思ったのだが、まずは1話だけで観てみようと考え直した。何気なく観始めたが、話数が進むごとに物語の展開に惹かれていき、今では最新回が待ち遠しくなっている。

『わたしの幸せな結婚』は、明治や大正の日本をモチーフにした世界観を舞台に、名家に生まれながらも、実母が亡くなり、実の父親と継母から使用人同然の扱いを受けて育った斎森美世が、冷酷無慈悲と噂される軍人で久堂家の当主、久堂清霞(きよか)に嫁入りするところから物語が始まる。

斎森美世はその生い立ちゆえ、自己肯定感が非常に低く、将来は一緒になると思っていた男性が異母妹と結婚することにもなり、自身の人生に対して厭世気味になっていた。だが、暗く沈み込んだ斎森美世の心が、当初は厳格な人物だと思われた久堂清霞の優しさと、彼女を思う行動によって救われていく。

これだけでは通常のラブストーリーなのだが、『わたしの幸せな結婚』は異能という特殊能力を巡る争いが絡んでくることで、物語に意外性を持ち込む。明治時代のような世界観を舞台にしたラブストーリーに、バトル要素が絡むアニメ作品というのは非常に珍しい。原作者の顎木あくみは、『はいからさんが通る』のように、明治や大正を舞台にしたラブロマンスは既出であり、バトル要素や特殊能力を取り入れることで面白い物語ができるのではないかと、メディア「好書好日」のインタビュー「『わたしの幸せな結婚』顎木あくみさんインタビュー 累計300万部、和風シンデレラストーリーに胸キュン!」で語っていた。

一見、無関係に思える二つの要素が一つになり、新たな創作が誕生する。これはアニメに限らず、多くのクリエーションで起こる現象だ。そしてそれは、ファッションが得意とするところでもある。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)は、「プラダ(Prada)」2024SSメンズコレクションで意外性にあふれた男性の服を披露した。

登場するアイテムはテーラードジャケット、デニムシャツ、スラックス、ショーツと、メンズウェアでは珍しくないスタンダードなアイテムばかり。コレクション全体の雰囲気はクラシカルな趣だが、ショーツと黒いソックスを組み合わせたスタイルは、上品なスクールボーイを連想させ、大人の渋みに少年の繊細が加わったかのようだ。だが、私がプラダのメンズコレクションに感じた、異なる要素の融合は「大人と少年」ではない。

このコレクション、一見するとウィメンズウェアの要素は見られない。男性モデルがスカートやワンピースを着用しているわけではなく、レースやフリルといったウィメンズウェアならではの素材やディテールも使用されているわけではない。色はブラック、グレーなどのベーシックカラーに、パープル・イエロー・レッド・グリーンなどを挟み込んでいるが、フェミニンなムードは感じられない。

プラダの2024SSメンズコレクションからは、ウィメンズウェア的ニュアンスは皆無ということになる。しかし、ランウェイを歩く男性モデルたちからは、不思議と女性の佇まいが感じられてくるのだ。いったい、なぜなのだろう。

それはウェストラインにあった。

象徴的なルックはジャケットを用いたものだ。大きくせり出した肩幅が横方向のシルエットを強調する一方で、ジャケットの裾は大胆にもパンツの中へタックインし、ウェストが急激に絞られている。ワイドなショルダーラインと、タックインによって絞られたウェストラインの対比から私が想像したのは、19世紀のヨーロッパで女性たちが身につけていたコルセットだった。男性モデルたちは現代のジャケットやショーツを着用しているというのに、私の脳内では19世紀の淑女たちが見えている。なんとも不思議な体験だ。

複雑怪奇なパターン構造でも、パッドを服に埋め込んでいるわけでもない。コレクションに使われたのはメンズウェアの基本アイテム。スタイリングも、ジャケットの裾をパンツの中に入れるという意外性はあっても、タックイン自体はなんともありふれた着こなしのテクニック。ミウッチャとシモンズ、二人の異才はシンプルなシルエットとテクニックで、歴史上の服と女性たちを現代に再現したのだ。

特殊なイメージを、複雑かつ大胆に作り込むことで実現させる手法は選択せず、ミウッチャとシモンズはなんてことのないアプローチで、特異なファッションを創造してしまった。服は普通であるにも関わらず、イメージは独特。いやはや、恐れ入る。

過去から学び、無関係に思えたのものを一つにした時、そこに新しさが生まれる。そして、ありふれた手法であってもオリジナリティは実現でき、特殊性はいっそう増していく。複雑さと大胆さばかりに目を奪われてはいけない。私はプラダを牽引する二人の天才と、『わたしの幸せな結婚』から創作の視点を教わった。

〈了〉

スポンサーリンク