ブランドは変化という宿命とともに生きる

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AFFECTUS No.453

8月15日にX(旧Twitter)で「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の表参道店リニューアルに関する記事を、引用ポスト(ツイートという言葉が公式からなくなり、いささか寂しい)したところ、思った以上に反応が大きかった。リニューアル以前の「メゾン マルジェラ」表参道店は、表参道沿いにあるファッション複合ビル「GYLE(ジャイル)」の2階に店舗を構えていたが、リニューアル後は同ビルの1階へ移動し、ストリートに面するショップとなった。

私はまだ実際にリニューアル後のショップを訪れていないが、店舗写真を見てみると、過去のブランドイメージから脱却した店舗デザインだと感じた。色彩をベージュ系の柔らかなトーンで統一し、整然とアイテムが配置された店内には、非常に洗練されたラグジュアリーなムードが漂う。

私の中でマルジェラのショップと言えば、「メゾン マルタン マルジェラ トウキョウ(Maison Martin Margiela Tokyo)」旧恵比寿店のイメージが今も鮮烈に残っている。古びた住宅を白いペンキで塗り潰すという、極めてシンプルで誰にもできる手法にかかわらず、従前の建物とはまったく異なる空間を誕生させた店舗デザインである。当時、私が友人と共に店内へ入ると、以前使われていた浴槽がそのまま残っていたが、白いペンキによって塗り潰されたことで、アートなオブジェを鑑賞している錯覚に陥った。

店舗デザインの鮮烈さは建築家にとってもインパクトがあったようで、青木淳が『新建築』2001年3月号に「白く塗れ」というタイトルで寄稿する。私はその『新建築』を探し出して購入し、今も大切に保管している。煌びやかで新しく見せるはずのニューショップを、過去の記憶を残す空間に作り上げ、退廃したムードを漂わせる。他に類を見ない店舗デザインは、マルジェラが持つ才能の偉大さを物語っていた。

リニューアルされた表参道店は、以前のマルジェラとは完全に別の道を歩み出したことを宣言したと言えよう。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)がディレクターに就任したことで、デザインは変貌してもビジネスが好調となれば、顧客像も変化したはずだ。変わったブランド、変わった顧客に対して、店舗デザインも変化するのは当然のことである。

私は、リニューアルされたショップのデザイン、「メゾン マルタン マルジェラ」から「メゾン マルジェラ」への変化を批判的には捉えていない。ブランドが継続していく上では、「そういうこともある」というのが正直な気持ちだ。

私が淡々とした感情を抱くのも、以前にデザイナーや生産管理としてファッション企業で働き、全国規模でショップを展開している企業でも勤務した経験が作用しているのだろう。売上が落ちてきたブランドのリニューアルのために、商品デザインを変化させても、売る場所(売り方)と顧客像が以前のままなら売上は落ちる。ブランド(デザイン)が変わったなら、ショップやターゲットも遅かれ早かれ変わるべきなのである。ブランドは継続年数を重ねれば重ねるほど、顧客像も変化していき、これまでの顧客を対象にするのか、それとも新たな顧客を開拓すべきか、決断が迫られる。

これはモードという舞台でも変わらないはずだ。ラフ・シモンズ(Raf Simons)は「カルバン クライン(Calvin Klein)」時代に、ファッションの未来を示唆する素晴らしいデザインを発表したと今でも思っている。しかし、あまりに先鋭的過ぎたために、カルバン クラインの従来の顧客像にはマッチせず、ビジネスが低調になり、わずか4シーズンで退任となってしまった。

私がモードファッションに魅せられて約四半世紀。様々なブランドがデザインを変え、何度もブランドの活動終了を報じるニュースを見てくると、ブランドの変化というのはファッションに欠かせない現象で、私たち人間にとっての呼吸と同じくらい不可欠なものだと思えてきた。ファッションにおける宿命とも言える変化を観察しながら、今日も私はこの世界を生きる。

〈了〉

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