AFFECTUS No.455
ビッグシルエットがファッションの主流となり、7年から8年が経つだろうか。昨今のコレクションではスレンダーな形も登場し始めているが、ボリュームある服がいまだにトレンドの中心であることに変わりはない。中にはボリューミーなシャツやニットに、少しばかり食傷気味となっている人がいるかもしれない。私もそう感じる人間の一人だ。そうかと言って、身体にフィットするシルエットを着る気分でもないし、まだそんな時代でもない気がする。だが、そんな私に変化が起きた。
「ビッグシルエットには、まだ可能性があるのではないか」。
パタンナー出身の漆山政春が手がける、「ウル(Uru)」2023AWコレクションのルックを見た時、そう思えたのだ。
私はこれまでに何度かウルの展示会を訪れており、コレクションを見るたびに服のクオリティを感じていた。カジュアルなスタイルがメインのブランドではあるが、服の一点一点に上品さが爽やかに香る。2023AWコレクションの展示会も訪れる予定だったのだが、原稿の締切が迫っていたために断念した。だが後日、PRから送られてきたルック写真を見て悔やむ。ディスプレイに映るモデルから感じた、軽やかな新鮮さが私に後悔を抱かせた。手に取り、この目で見てみたかったと。
2023AWコレクションは二つのスタイルで構成されていた。その一つはクラシックスタイルだ。
ウルのコレクションは、ジェンダーレスで展開される。モードの文脈に乗るブランドではあるが、近寄りがたさや挑発的なデザイン性は皆無。丸みを帯びたフォルムのブルゾンやコートは、見ているだけで気持ちを優しくする。2023AWコレクションでも、ウル得意の柔らかなボリュームシルエットは健在で、色はブラックを主役に据えて、ボトムはパンツのみで展開し、クラシカルな仕上がりを披露する。
漆山の審美眼が仕立てた柔らかなフォルムは、重厚感や渋みから遠く距離を置いた服を創造した。布地は、人間の身体が持つ曲線を慈しむように肩から腰、大腿部から膝、足へと流れるように続く。ジャケットとパンツ、上下でしっかりとアイテムが区別されたスタイルであっても、まるでドレスのように澱みなく流れるシルエットに感じられるから不思議だ。ただ、ドレスのような流麗感と言っても、そこはウル。非日常的存在感を持つ服には仕立てない。あくまで、デイリーウェアとして輝かせる。黒いトラウザーズが、ルームウェアと同じリラックス感に包まれていた。
そしてもう一つのスタイルが、カジュアルスタイル。そして、このカジュアルスタイルこそ、私がウルの2023AWコレクション展示会に行けなかったことを、後悔させた最大の要因だ。ビッグシルエットのカジュアルなジーンズやニットが、先述のクラシックスタイルより魅力的で、その要因が何かと考えた時、すぐに一つの要素に思い当たる。
ビッグシルエットの可能性を見せてくれたアイテムは、フェミニンがデザインの鍵になっていた。二つぐらいサイズが上なのではと思うほど、ワイドシルエットのスウェットパンツ、肩が大きくドロップし、起毛素材が心地良さそうなニュアンスカラーのカーディガン、淡く褪せたブルーデニムを股下を深く、ワタリもかなりの太幅にしたボリュームジーンズ。いずれも日常着と言えるアイテムで、身体を緩やかに包み込むシルエットが服から緊張感を取り除く。
私は、エッジがゼロのスウェットやジーンズにかわいさを感じた。ウルの服は、メンズワードローブと言えるベーシックばかりで、素材もベーシックウェアではお馴染みの基本素材を使用している。かわいさゼロの服にも関わらず、かわいさを感じた理由は、ウルの丸みを帯びたボリュームシルエットがもたらしたリラックスにある。緊張とは無縁の空気が、女の子が休日に自分の部屋でのんびりと過ごす姿を想像させ、フェミニンな香りを漂わせた。
「ヴェトモン(Vetements)」とも「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」とも異なる視点から作られたビッグシルエットは、ルームウェア的リラックスを混ぜ合わせ、日常着にかわいさを演出する。
ウィメンズウェアの象徴的シルエット、カラー、ディテールなしに、かわいさを感じさせる。なんと心憎いコレクションなのだろう。ウルの2023AWコレクションは、ベーシックな外観の服で、ファッションデザインの文脈に異なる解釈を刻む。やはりウルはモードブランドだ。
〈了〉