SC103がニューヨークから幸福を運ぶ

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AFFECTUS No.460

2024SSシーズンのニューヨーク ファションウィークが開幕した。連日コレクションをチェックしていて感じたのは、近年は注目の才能が出現するニューヨークにしては、今シーズンはやや小粒だなという印象だった。だが、じっくり観察すると、強烈なインパクトを与えるタイプとは別の面白い才能がいくつか出現していたことに気づく。面白い才能とは、まだ無名に近い若いブランドがフレッシュな魅力を発表したケースもあれば、キャリアを重ねたブランドが新たな魅力を披露したケースもある。今回は、前者のケースをピックアップしたいと思う。

ブランドの名は「SC103(エスシー103)」。ご存知の方はどれだけいるだろうか。そういう私も、今回初めて知ったブランドになる。2019年にニューヨークで設立されたブランドの創設者は、クレア・マッキニー(Claire McKinney)とソフィー・アンデス=ガスコン(Sophie Andes-Gascon)の二人。不思議なブランド名は、マッキニーとガスコンが大学卒業後にシェアしていたアパート名に由来しているとのこと。なんとカジュアルな名付け方なのだろう。だが、ファッションにはこういうユーモアは必要不可欠だ。シリアスばかりが、ファッションの面白さではないのだから。

ブランドサイトを確認すると、現在の取り扱いセレクトショップはニューヨークを中心に全10ショップで、日本での取り扱いは「エディション(Edition)」のみだった。Instagramアカウントのフォロワー数も約1万5,000人で、ブランド規模としてはまだ小規模だと言えよう。

では、先ごろ発表された2024SSコレクションを見ていきたい。

発表ルック数は21型と少々少ないが、デザインから受けたインパクトは数字以上のパワーがあった。まず目に飛び込んできたのは、カラフルな造花のような装飾だ。Tシャツやバッグに色彩豊かなモチーフが取り付けられ、1点もののようなスペシャルな雰囲気を放つ。他にもスパンコールや刺繍などの装飾テクニックが、あらゆるアイテムに使われていた。クラフトワークとヴィンテージウェアがミックスしたムードのSC103を見ていたら、女の子が古着のワンピースやトップスをDIYして楽しむ姿が浮かんできた。何ともパーソナルなコレクションである。

しかし、私がSC103に惹かれた理由は別にある。それは、DIYウェアと文字プリントのアイテムを組み合わせたスタイルだった。SC103の技巧が作り出した、プリントワンピースや刺繍を施したノースリーブウェアは民族服調でもある。ある民族に受け継がれてきた伝統の柄と色が、ハンドメイドで作られた趣だ。一方で、数は少ないのだが、文字プリントのジャケットやボトムが作られ、それらのアイテムからは現代的な服の空気が漂う。ただし、プリントされたアイテムの素材がコットンやリネンに見えるため、ややノスタルジックでもあった。

民族服と現代服が融合したスタイル、私はそこに面白さを感じたのだ。DIYウェアというと、牧歌的雰囲気のデザインが多いのだが、Sc103は現代ファッションのデザインと組み合わせ、時間軸と文化の異なる服を一体化させたオリジナリティが確立していた。刺繍を多用したヴィンテージテイストのワンピースはロング丈であることが多く、それがまた牧歌的雰囲気を強めるのだが、SC103のワンピースはミニ丈を軸にスポーティな方向へ振れている。

クラフトワークを使用した服は、ノスタルジー・ガーリー・メルヘンの世界に振れることが多かった文脈を、SC103ではモダン&スポーティの文脈に乗せて、新たな世界線のクラフトワークを披露した。コレクション全体を見れば、ヴィンテージテイストではあるが、SC103からメルヘンワールドを感じることはない。快活な様子で、現代都市を楽しげに歩く女の子たちが浮かび上がってくる。

まだまだ注目度は小さく、知名度も小さいSC103だが、デザイン的に見ると文脈的面白さが現れていた。新しい才能と出会う面白さは、ファッションの醍醐味。新しいブランドに一目で惹かれた時、そこには必ず刺激が潜んでいる。その刺激を味わえることは、ファッションの世界で生きる人間、ファッションを楽しむ人間にとって幸せなことだ。SC103はニューヨークから幸福を私に運んでくれた。

〈了〉

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