ファッションの真理をつくノウルズ

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AFFECTUS No.462

注目のデザイナーを次々と輩出するロンドン。若い才能たちが見せるファッションは実に幅広い。ドラマティックなドレスが発表されたかと思えば、クラシックなテーラードジャケットが発表されたりと、創造性の表現形は多様に富む。近年、人気を高めている「ノウルズ(Knwls)」も、独自の個性を発表している新進ブランドだ。

名門セントラル セント マーティンズ(Central Saint Martins0)で共に学んだシャーロッテ・ノウルズ(Charlotte Knowles)とアレクサンドル・アルスノー(Alexandre Arsenault)が、ノウルズを設立したのは、まだストリートウェアが猛威を振るっていた2017年。世界を席巻するファッションなどどこ吹く風、ノウルズはガードルやブラジャーなど、アンダーウェアから発想されるウィメンズコレクションで確固たるオリジナリティを築いていく。

デビューとなった2018SSコレクションでは、ノウルズのDNAであるランジェリー的カットのデザインを確認できるが、色使いはベージュやピンクが使われ、やや甘いムードが作られている。ただし、翌シーズンに発表された2018AWコレクションになると、ブラウン系のカラー、カモフラージュ柄が登場し、現在のノウルズに通じるアンダーグラウンド世界が覗き始めた。

2019SSコレクションは赤いギンガムチェック生地、淡いグリーンやブルーをベースにしたチェック生地が使われ、ブラジャー型のカットを取り入れたトップスやスリップドレスと、シャツやジーンズなどのスタンダードアイテムがミックスされ、キッチュな魅力を放つ。

以降、ノウルズは澱んだ暗さと混沌した世界観のコレクションを披露するようになり、甘いフェミニンを作ることなく現在に至る。

オーバーサイズで身体を覆い隠すトレンドシルエットとは真逆の、ボディラインを強調するノウルズのシルエットは、人間の身体が持つ造形的魅力を力強く訴える。そのようなデザインを、本来ならセクシーと形容すべきなのだろうが、ノウルズを着用するモデルたちを見ているとパワフルと称したくなる。アマゾネスとも表現すべき、野生的な女性像が誕生しているのだ。

ノウルズの特徴に素材があげられる。爬虫類、植物、錆、汚れ、ひび割れ、それらのイメージを抱かせるプリント生地とハードな加工は、「クリーン」「ピュア」と形容されるファッションとは別世界のものだ。

9月に発表された最新2024SSコレクションは、ノウルズの特徴が余すことなくデザインされていた。コルセットやボディスーツをモチーフにしたトップスとミニドレス、肌を怪しく透かす薄手のテキスタイルといった、このブランドお馴染みのアプローチで女性のボディを強調する。だが、決してフェミニンな世界には振らない。その象徴が、先述したハード加工の素材である。激しい色落ちやブリーチを連想させる素材が、アンダーグラウンド世界の濃度を一気に高めていく。

レザーのモトクロスジャケットは、2024SSコレクションを代表するアイテムだ。黒いレザーには、フランスの老舗シューズブランド「ベルルッティ(Berluti)」で有名なパティーヌ加工が行われていた。「パティーヌ(patine)」は「錆(さび)」を意味し、この加工が使われた素材は、経年変化した素材の色味と味わいが再現される。ノウルズはパティーヌ加工のブラックレザーを、幅広い肩幅の筋肉質なシルエットで形づくり、ベージュのミニニットドレスとスタイリングする。ノウルズは、アイテム単体では柔らかな印象のニットドレスを、優しい世界には染め上げない。どこまでも澱んで暗く。それがノウルズだ

世界的トレンドのクワイエット ラグジュアリーとは、遠く離れた場所にある服がノウルズなのだ。ファッション界の人気デザインから外れていても、個性を磨き上げたコレクションは市場の中で価値を生んだ。上質でクリーンな服を好まない人々も、世界には存在する。人間の数だけ、スタイルの数はある。シャーロッテ・ノウルズとアレクサンドル・アルスノーがロンドンから発信するもの、それはファッションの真理だ。

〈了〉

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