展示会レポート
Abelia Edoward Goucha 2024SS

華やかでも鮮やかでもなく、どこかで何度も見たことのある既視感に襲われ、まるで雑草のように思えていた花が、想像もしなかった響きの名前がつけられていたことを知った時、人は何を感じるのだろう。松井誠剛は「アベリアエドワードゴーチャ(Abelia Edoward Goucha)」と名付けられた花と出会い、その名を自身のブランド名とした。

もしかしたら世間的には輝かしい魅力を感じられていないかもしれないが、なぜか心惹かれ、そんな隠れた美しさと出会うことが松井の服作りだった。ただし、アベリアエドワードゴーチャに、鮮烈なインパクトは微塵もない。あくまでも静かに穏やかに。それが、アベリアエドワードゴーチャなのだ。

私が松井から初めて連絡をもらったのが、2023年4月。ブランドのInstagramアカウントを確認すると、投稿されていた写真に私は妙に惹きつけられた。

*「Abelia Edoward Goucha」Instagramより

特別な造形や、激しい素材加工は見られない。スタイリングも至ってカジュアル。だけど、この優しく柔らかい気怠さとも言える空気感はなんなのだろう。私は展示会を訪れたかったが、どうしてもスケジュールが合わず、服を実際に見ることができなかった。そこで、もしよかったら次回も案内をいただけたらと、松井にInstagramのDMで伝えることにした。

それから半年、松井は2024SS展示会開催の案内を約束通り送ってくれた。今日は目覚めると久しぶりに涼しい気候で、約20年以上前に購入した「アトウ(ato)」の黒いコットンジャケットを着用しようと決める(結局、日中は暑かったが)。1枚仕立てのジャケットは、だいぶ色が褪せているけれど、私はこの古びた服の表情が好きだ。

外苑前駅で降り、展示会場のビルへ歩いていく。少々入り口に困ったが、エントランスで偶然にも松井と出会い、展示会場となった一室へ向かう。ドアを開けると、小さな空間にラックが置かれ、そこに2024SSコレクションが見えた。

Instagramで見たとおりの、優しく柔らかく気怠い空気の服が並ぶ。どの服もシンプルでベーシックなアイテムばかり。だけど、よく見ていくとシャツやジャケットのどこかに、ささやかな主張が顔を覗かせている。

古着のように退行した素材感のTシャツは、襟元を微笑ましく飾る。ボタンダウンシャツの素材は、価値なきものとして扱われていた生地のストックから、松井が見つけ出してきたもの。そんなエピソードを聞くと、古着屋で誰の目にもとまらず、長年売り場に残ったままのシャツに思えてきた。だけど、そんな存在感が愛おしく思えるから不思議だ。

生地の表面にピリング(毛玉)が生じたような加工の生地を、オーバーサイズショルダーの3つボタンジャケットに仕立てたアイテムも制作されている。このベージュ色の生地もシャツの生地と同様に、松井が積まれた生地の中から見つけたものだった。

毛玉を嫌う人はきっと多いだろう。だが、私は毛玉の生じた生地の表情が好きで、とりわけピリングしたニットは、私の好きな服である。そんな私の趣向に、このジャケットと生地がはまる。

アベリアエドワードゴーチャの服は、誤解を恐れず言えば地味だ。彩り豊かな色彩、一目で惹きつける特異な造形があるわけではない。洗練や最先端とは遠い場所にある服、ひっそりと佇む服だと言えよう。だが、そんなアベリアエドワードゴーチャを必要とする人がいるのではないか。このブランドが見せる、優しく綺麗な気怠さを必要としている人が。

目標に向かってエネルギッシュには生きられない。かといって、アウトローの道を選んだ人間でもない。人からは怠惰に見えるような表情と暮らし。ただただ、その日を、その時間を慈しむように過ごしていく。

一人静かに、部屋の片隅で愛する花を育て暮らす若者のための服。誰にも目を向けられない花に愛を静かに注ぐ。その花の名はアベリアエドワードゴーチャ。さあ、今日の夕食は何を食べよう。

〈了〉

 

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