世界の学生たちとプロの舞台に立つアーロン・エッシュ

AFFECTUS No.464

世界のファッションスクールの卒業ショーには、未来のスターが現れているかもしれない。その思いから、私はセントラル セント マーティンズ(Central Saint Martins)やアントワープ王立芸術アカデミー(Antwerp Royal Academy of Fine Arts)の卒業ショーをチェックすることが、楽しみとなっている。約4年前、2019年に開催されたセントラル セント マーティンズのMA(修士)卒業ショーでは、ネンシ・ドジョカ(Nensi Dojaka)のデザインが印象的だった。

パワーショルダー、ビッグシルエットという身体を誇張するデザインが当時のトレンドだったが、ドジョカは時代のメインストリームへ楔を打ち込むように、生の身体を提示するランジェリー的ミニマムドレスに儚い繊細さも添えて発表し、私は一目見るなり惹きつけられた。ドジョカの卓越したビジョンは、2021年の「LVMH PRIZE」でグランプリを獲得する。

今年2023年のセントラル セント マーティンズMA卒業ショーでは、Max Anthonyという学生のコレクションが秀逸だった。ニット、シャツ、パンツ、ジャケットというオーソドックスなメンズウェアを、ライトグレーやクリームなどの淡いカラーでまとめ上げたコレクションは慎み深い美しさを仕立てあげ、私の心を一瞬で捉える。

2024SSシーズンのニューヨーク ファッション ウィーク開催期間中には、ニューヨーク州立ファッション工科大学(Fashion Institute of Technology、以下FIT)とパーソンズ(Parsons School of Design)のMFA(美術修士)の卒業コレクションも発表されていたが、私はパーソンズのYamil Arbajeが発表したメンズコレクションに注目した。

今回のFITやとパーソンズの学生が発表した卒業コレクションは、リアルなニューヨークファッションというイメージとは一線を画す実験的デザインが多かったのだが、Yamil Arbajeはメンズウェアの色・柄・形をユーモアの方向に崩しながらもリアリティの強いコレクションを発表し、「ドーバー ストリート マーケット(Dover Street Market)」などのセレクトショップが今すぐバイイングしそうなほど、高い完成度を誇っていた。

また、新たなファッション発信地として注目されているデンマークのコペンハーゲンでも、面白い学生を発見する。デンマーク王立アカデミー(Royal Danish Academy of Fine Arts)の Andreas Hermann Blochは、クラシックやトラッドテイストのメンズウェアを、素材の加工、シルエットの崩しを入れて再構築し、保守的なメンズウェアの中で挑戦を試みる。Andreasは今すぐ自分のブランドを始めた方がいいのではないか。そう思えるハイクオリティのコレクションだった。

卒業ショーで見た学生が、後年プロのステージで活躍することを見るのは楽しい。2024SSシーズンでも学生時に注目したデザイナーが、ロンドン ファッションウィークで初のショーを開催した。セントラル セント マーティンズ卒業後、自身の名前を冠したブランドを設立したのは、アーロン・エッシュ(Aaron Esh)。

私がエッシュの存在を初めて知ったのが、昨年2022年3月に開催されたセントラル セント マーティンズのMA卒業ショーだ。それは、冷たい異物が混入したメンズウェアと称したいコレクションだった。派手なデザインがあるわけではないが、異星人が人間の姿をしてモードウェアを着るような不思議な感覚に襲われる。そしてプロの舞台に立ったエッシュのデザインは、学生時代の特徴を残しながらも進化を果たしていた。

卒業ショーでは基本的にリアルな服だが、肩が異様に反り返ったブルゾン、表面がレリーフのように隆起した模様を形作ったブルゾンが制作され、異端的な造形をコンパクトに表していた。しかし、シグネチャーブランドを始動したエッシュのデザインは、ストリートとクラシックが融合したメンズウェアに、ウィメンズウェアのカッティングとアイテムも混ぜ合わせる方向性へシフトし、特徴である異端性をリアルに表現する術を手に入れていたのだ。

新しいエッシュの武器は、初のショーとなった2024SSコレクションでも発揮される。シルキーな布を、上半身に纏わせただけに見えるドレープ性あるトップス、襟を通常の型ではなく大きなスカーフ型にデザインしたシャツ、ロング&リーンシルエットのロングコートからは、卒業コレクション時の特徴であった異物を取り入れた造形は姿を消し、学生時代のクリーンなテイストを維持したまま、男性と女性、双方の性別の境界を曖昧にするナイトウェア的色気のワードローブへと進化していた。シャツとジーンズという、言葉にすれば究極にシンプルなスタイルが、シャツの襟がスカーフにデザインされて何とも色っぽい。

エッシュのデザインは学生の時点で高い完成度を誇っていたが、シグネチャーブランドを設立してからのデザインは明らかに洗練されている。卒業コレクションを改めて見てみると、かすかだが粗を感じるほどだ。

若い才能を見る時、経験と実績を積んだ人間は短所に目がいきがちだ。「あれができていない」「ここを直した方がいい」と。もちろん、短所を直すことは重要だが、そこにばかり意識がいってしまうと、特徴のない平均的な人材に育ってしまう。

まずは粗よりも、その若者がどこに長所を持っているのか見るべきではないか。他の人間と比べて、どこに特徴的な武器を持っているのか。それを発見することに意識を集中し、若者が武器を磨き上げる手助けとなる。その繰り返しが個性を生むと私は感じる。そしてファッションデザイナーには、とびっきりに突き抜けた個性が必要だ。

才能を見ることは可能性を見ること。いったいどこまで成長するのか、どんなデザイナーになるのか。ファッション界の未来を思う体験は、これからも私の楽しみであり続けるだろう。

〈了〉

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