AFFECTUS No.465
ファッションデザイナーとして自身のファッションブランドを立ち上げるルートというのは、一昔前なら名門ファッションスクールを卒業後、有名ファッションブランドで経験を積んでから独立というのが王道の道だっただろう。しかし、多様化の今、ファッションデザイナーになるための道やファッションブランドを立ち上げ方にも、様々な方法が生まれてチャンスは広がっている(もちろん、チャンスと成功は別の話だが)。
大きな影響力を持つインフルエンサーが、ファッションブランドを立ち上げることも珍しくなくなった。ストリートスナップの人気スターだったイタリア人、ジルダ・アンブロジオ(Gilda Ambrosio、2023年10月5日現在 Instagramフォロワー数72万人)と、ジョージア・トルディーニ(Giorgia Tordini、2023年10月5日現在 Instagramフォロワー数40万人)が2016年に立ち上げたブランド「ジ アティコ(The Attico)」は、今やミラノファッションウィークでも発表する人気ブランドへと成長した。
2024SSシーズンのジ アティコは、現在のトレンドであるシンプルな上質ファッション、クワイエット ラグジュアリーなんて吹き飛ばせと言わんばかりのパワフルなコレクションを披露する。
クリスタルにも見える煌びやかなモチーフを繋げたロングドレスは裾にファーをあしらい、真っ赤なロングドレスはフリンジ状の生地で仕立てられて鮮烈、レザー素材(リアルかフェイクかは不明)によるオールブラックスタイルはハード、上半身には白いシャツの上から大きく力強く幅広いパワーショルダーのブラックジャケットを纏い、シャツの下から覗く両脚は、黒い葉のようなモチーフを取り付けたストッキングだけを穿く。
ジ アティコが発表した最新コレクションは、ゴージャスとエロティックをミニマルに表現したスタイルと言えるだろう。
とりわけドレスはグラマラスの一言。黒いポンポンをつなげる、肌を完璧に透かすシースルー生地を流麗なフォルムで制作、ローゲージに編んだネットはフリンジが無数に舞う、儚げな裾が翻るドレスは淡いブルーのレース、用いられた素材とドレスの形はいずれも技巧に富む。
ランウェイを歩くモデルの姿は、肌を見せることにも躊躇がないポップスターの女王が、大胆すぎるファッションを着て人々の前に登場し、こんなセリフを言っているかのようだ。
「スポットライトは私だけのもの」
こう書くと、ジ アティコの服はかなり装飾的なデザインに思われそうだが、私にはミニマルテイストが感じられた。それはなぜなのか。きっと、素材やディテールの活かし方が思ったよりもあっさりしているからだろう。
確かにジ アティコは大胆だ。しかし、複雑ではない。服のフォルムもベーシックに近い。
エンブロイダリーにプリント素材をドッキングさせて、シャツとドレスが一体化したアイテム。そんな複雑さをジ アティコは作らない。服を構成する要素を一つ、もしくは二つを組み合わせて、比較的ベーシックな形で作る。それがジ アティコの手法だ。
オーバーサイズのビッグジャケットは確かにインパクトはあるが、形をよく見れば難解ではない。肩幅を極端に幅広く硬く作り上げて強調し、一方ウェストのシェイプはきつくする。アイテムが元々持っている形(ショルダー、ウェスト、衿など)を過剰に強調することで、インパクトを作り出しているのだ。ジ アティコは「サカイ(Sacai)」のように、服が絡み合う複雑怪奇なパターンでは構成されていない。
私がジ アティコから感じるミニマルは、服そのものというよりも服を作る手法から感じたものだと言っていい。装飾性にあふれた素材やディテールを使っても、服の作り上げ方がシンプルならばミニマリズムの概念が匂ってくる。そんなデザインを、私はニューミニマルと呼びたくなった。
ジ アティコがパワフルに思えたのは、アグレッシブな素材と力強いショルダーラインだけが理由ではない。服作りの手法に新しさを感じたからこそ、私はコレクションからパワーを感じたのだった。ファッション界王道のルートとは違うルートで登場したイタリアンブランドは、ファッションデザインにも新しい文脈を刻もうとしている。
〈了〉