ファニング姉妹とキコ・コスタディノフの共同戦線

スポンサーリンク

AFFECTUS No.466

2024SSシーズンを見ていると、トレンドと言うほど目立つ現象ではないが、一つ気になる動きがあった。それは、デザイナーが得意とするスタイルの表現を控えて、別の特徴を打ち出したり、得意なスタイルにこれまでは見られなかった新しい要素が入っているといった現象である。前者で言えば、「ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)」が該当する。

ドリス ヴァン ノッテンと言えば、花柄を代表としたプリント生地が特徴だが、2024SSコレクションではプリント生地の使用がいつになく控えられていた。その代わり、服のカッティングやディテール、スタイリングで魅せるルックが増加し、最新コレクションではトラックジャケットやラグビーシャツを思わすアイテムも制作され、モデルたちの装いにリラックス感が漂っていた。一目で惹きつける大胆なプリント生地が減少することで、服そのものへ意識が向けられ、ドリス ヴァン ノッテンの実力を改めて実感する仕上がりだ。

そして後者のモデルケースとして取り上げるブランドが、今回のテーマになる。それが、ディアナ・ファニング(Deanna Fanning)とローラ・ファニング(Laura Fanning)がディレクションする、「キコ コスタディノフ(Kiko Kostadinov)」ウィメンズラインだ。

ファニング姉妹が手がけるキコ コスタディノフのウィメンズウェアの特徴は、奇異な色彩と造形センスになる。

「そこにそんな切り替えが必要なのか?」
「ストライプとストライプを合わせなくても…」
「肘にそんな膨らみは作らなくてもいいのでは?」

などなど、ファニング姉妹のコレクションを見ていると、疑問を浮かべることが多々ある。美しく調和の取れたデザインとは対極のデザインだと言えよう。服の形は、アヴァンギャルドというほど大胆な迫力があるわけではない。基本的にはスレンダーなシルエットで、細身の枠の中で歪さが表現されている。

だが、当初は奇異に感じたファニング姉妹のセンスが、近年は惹かれてしまう。それはメンズラインにも同様のことが言えた。キコ・コスタディノフ本人が手がけるメンズコレクションは奇妙なボリュームや切り替え、色と柄の組み合わせがスレンダーシルエットの枠内で展開され、私を惹きつける。この一風変わった服を着て、街中を歩いてみたいと。

ファニング姉妹が得意とする色彩と造形センスは、2024SSウィメンズコレクションでも発揮されていた。しかし、ルックを見ていくと、これまでになく柔らかく感じられてきた。この感覚はなんだろう。そうだ、フェミニンだ。ファニング姉妹がフェミニンに着手したのだと感じ、私は驚く。

肌を完全に透かすシースルー生地を多用し、ドレープのテクニックを取り入れ、モデルたちが着用する服に柔らかな膨らみを作り出すことで、奇妙な世界とフェミニンが合流したソフトタッチなコレクションを完成させている。独自性強いコレクションが発表されるパリの中でもあっても、ファニング姉妹が提示したデザインには際立つ個性があった。

いや、そう述べると鮮烈なインパクトがあるように思われてしまいそうだが、そこまでの激しい強さがあったわけではない。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)のように、ドラマティックな造形で表現されれば力強い迫力を感じたかもしれないが、キコ コスタディノフのウィメンズは、あえてモードで重視されてきたダイナミズムを避けている印象だ。

ファッションデザインは強さを打ち出そうとする。強く強く、ひたすらに強く。色彩、素材、造形すべてに強さを注入し、ダイナミックなデザインを完成させる。そうした服がモードの中では価値があるとされてきたし、私自身も興奮して楽しんできた。だが、近年登場する若手デザイナーたちからは、そうした激しさから一歩引くデザインが散見される。

ファッションにおいて強さは本当に重要なのか。

ディアナ・ファニングとローラ・ファニングはキコ・コスタディノフと共に、これまでのモードに対して静かに異議を唱える。

〈了〉

スポンサーリンク