サラ・バートンが舞台に幕を閉じる

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AFFECTUS No.467

2010年2月11日、天才の夭逝に世界中が驚く。40歳の若さで亡くなったアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)。これからブランドはいったいどうなるのか。混乱渦巻く中、新たなクリエイティブ・ディレクターとして発表されたのが、マックイーンの右腕としてウィメンズラインのヘッドデザイナーを務めていた、サラ・バートン(Sarah Burton)だった。

きっと大きなプレッシャーがあったはずだ。しかし、バートンは重圧に屈しない。彼女は「アレキサンダー マックイーン」のDNAを尊重しながら、自分のオリジナリティを融合させてブランドを成長させていく。青天の霹靂とも言うべき就任から13年以上が経過した2023年9月11日、バートンのクリエイティブ・ディレクター退任が発表される。今日はバートンのラストコレクション、「アレキサンダー マックイーン」2024SSウィメンズコレクションについて語っていこう。

アレキサンダー マックイーンというブランドはドラマティックなドレスと共に、テーラリングを抜きには語れない。美しく湾曲したコンケーブドショルダーのジャケットは、テーラリングの聖地、イギリス・ロンドンのザヴィル ロウ(Savile Row)に16歳で飛び込んだマックイーンの美意識と技術が注ぎ込まれていた。

バートンがラストコレクションの1stルックに選んだのは、ブランドの伝統を具現化したテーラードジャケットだった。と思いきや、注意深く見ると、このアイテムは通常のジャケットではない。マックイーンの技術によって仕立てられた、ジャケット型ミニドレスだった。

フラットで力強いショルダーラインは、まさにブランドの歴史を見る思いだ。しかし、肩先と袖山は分離しており、その隙間から女性モデルの肌が見える。フロントデザインもテーラードジャケットとは一線を画す。

ジャケットにあるはずのラペルは存在せず、Tシャツのようにクルーネックの衿型。だが、胸元の中心に細い楕円形の穴が形作られ、バストの谷間が覗く。ウェストは「クリスチャン ディオール(Christian Dior)」の名作バージャケットと同様に急激にシェイプし、裾に向かって花の蕾が膨らむように広がっていく。

以降、登場するルックにもバートンのカッティングが冴える。バストとウェストをボンテージウェアと同様に強調するフォルムデザインは、怪しく挑発的。その技巧がトップスやジャケットにも発揮され、一気にエロティシズムが増していく。スーツルックには、鮮烈な色彩の柄も使用して華やぎをもたらす。テーラリングとSMワールドを融合させた異端のスタイルだ。

そして、アレキサンダー マックイーンもう一つのDNA、ドラマティックなドレスも登場する。ただし、創業者が発表してきた中世ヨーロッパの貴族だけが纏えるドレスと言ってもいいダイナミックな造形に比べ、バートンがラストコレクションで発表したドレスは、スレンダーシルエットでスマートだ。もちろん、フリンジ、レース、煌びやかなモチーフを施したマテリアルなど、マックイーンならではのオートクチュールに勝るとも劣らないテクニックは健在。

だが、バートンはそれらの緻密なテクニックを、スレンダーな形の枠内で用いるためにクールな印象だ。アレキサンダー・マックイーンのドレスが、時代を数百年遡っても通じるエレガンスとするなら、バートンのドレスは現代でこそ映えるモダンエレガンスである。

天才が創り上げたブランドの遺産を尊重するだけではない。自身の色も混ぜて、ブランドを進化させていく。この難題を、バートンは見事にクリアしてきた稀有なファッションデザイナーと言えよう。

フィナーレに登場したバートンは、劇的で色気にあふれたコレクションとは打って変わって、ブルージーンズにナイキの白いスニーカーを履き、ネイビーのシャツを着用して、肩にニットをかけて登場していた。なんてカジュアルでリラックスした姿なのだろう。拍手に包まれて登場したバートンは、少し恥ずかしそうだ。彼女が紡いできた歴史は、ここで途切れる。

ブランドは早くも、バートンの後任となる新クリエイティブ・ディレクターを発表した。「JW アンダーソン(JW Anderson)」でメンズウェアのヘッドデザイナーを務めていたショーン・マクギアー(Sean McGirr)である。マクギアーは2014年にセントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)でMA(修士)を取得後、「バーバリー(Burberry)」、「ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)」、クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)のもとで「ユニクロ ユー(Uniqlo U)」のメンズラインなどを手がけてきた実力者だ。彼がどんなコレクションを発表するのか、非常に楽しみだ。

モードは止まることが許されない。常に先へ、先へと進む。だが、しばらくはこのラストコレクションに浸ろうじゃないか。サラ・バートンは厳粛な服に艶やかな化粧を施し、去っていく。アレキサンダー マックイーン第2章の閉幕である。

〈了〉

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