エリオット エミルは実験的工業性ストリートウェア

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AFFECTUS No.470

次々と興味深い才能を輩出するコペンハーゲン。世界的ビッグネームになっているブランドはまだ「ガニー(Ganni)」だけとも言えるが、北欧の地からリアル造形をベースに実験性を打ち出すコレクションが発表されている。「エリオット エミル(Heliot Emil)」は北欧伝統のミニマルデザインを、スカンジナビアデザイン特有のクリーン世界ではなく、ダークに染め上げた近未来世界に着地させることで、オリジナリティを確立していた。

エリオット エミルの拠点はコペンハーゲンだが、デビューは2017SSシーズンのミラノ ファッション ウィーク。ユリウス・ジュール(Julius Juul)とビクター・ジュール(Victor Juul)のジュール兄弟によって設立され、曽祖父の名をブランド名に冠している。

Instagramの登場以降、ファッションブランドにとってウェブサイトの存在感が薄れてきたが(ただし、近年はオンラインストアとして再び価値は高まっている)、やはりブランドの世界観を最も色濃く感じられるのはブランドサイトだろう。エリオット エミルのサイトを見れば、このブランドの世界観を一瞬に感じてもらえるはずだ。黒と白を基調にし、文字をコンパクトなサイズで、最小限の数だけ配置したサイトデザインは緊張感を漂わし、ファッションブランドというよりも、プロダクトブランドのサイトを見ている感覚に襲われる。

それでは肝心のコレクションは、どのような特徴があるのか。エリオット エミルのデザインは、黒・カッティング・ファスナーの3要素に絞られる。とりわけ、黒とカッティングが重要な要素になっている。

ほとんどの服に黒が使われ、ショーに登場するルックも全身ブラックのスタイリングが多い。白も使われるが、その数は少なく、黒が圧倒的だ。黒をシグネチャーカラーにするブランドは、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」や「アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)」などいくつかあるが、エリオット エミルの黒にはクールな印象を受ける。

その印象を作り出す役割を果たしているのが、カッティングだ。エリオット エミルの服には、アンダーグラウンドな未来を舞台にした映画やアニメに登場する戦士たちが、闘いのために装着するアーマーのようなイメージだ。通常のブルゾンやパンツなら切り替えが入らないような箇所に、直線の切り替えが横断していく。服のシルエットがワイドであってもスレンダーであっても、アイテムの幅と丈をコントロールしてクールなイメージに着地させ、肌を見せるカッティングを織り交ぜるのも特徴だ。

工業ウェアの味を加えるのがファスナー使いである。9月に発表された2024SSコレクションではそこまで目立つことはなかったが、現在発売中の2023AWコレクションはファスナーを特徴的に使ったアイテムが確認できる。ファスナーを使う箇所といえば、フロント中心の開きやポケット口に使用するケースが多く、それが通常の使い方だろう。だが、エリオット エミルはもっと大胆だ。

2023AWコレクションでいえば、TRUSS FLEECE JACKETと名付けられたアイテムは、後ろ身頃の裾の中心から螺旋を描くように、裾から右脇、右脇から右襟元に向かって、ファスナーがせり上がっていく。もちろんファスナーは開閉することも可能だ。FRAZIL CARGO TROUSERというパンツも、ファスナーが片方に3本ずつ、合計の6本のファスナーが腰・膝・足首の三箇所からパンツの内側に向かい、斜めに上がっていく形で取り付けられている。他にもブルゾンやトップスにも大胆なファスナー使いが見られ、銀色のスライダーとエレメントが工業感を増幅させていく。

エリオット エミルは黒・カッティング・ファスナー使いを特徴に、フューチャリスティックなブラックウェアを打ち出す。2024SSコレクションは、テーラードジャケットやロングドレスが登場し、シルエットもロング&リーンが軸でドレッシーだったが、私が面白いと思ったのはむしろ前シーズンの2023AWコレクションだった。

カーゴパンツ、ダウンジャケット、フードブルゾン、目出し帽、黒いサングラスが登場したスタイルは、ワークウェアを主役にしたストリートウェアと言うべき構成で、ファスナーも縦横無尽に使い、実験要素も強いコレクションだった。

先ほど述べた通り、アーマー的印象のカッティングとシャープな黒使いはエリオット エミルの武器だが、この武器をドレッシーな分野で活かすブランドは、「ピーター・ドゥ(Peter Do)」「ロク(Rokh)」「1017 アリクス 9SM(1017 ALYX 9SM)」とすでにライバルが多い。だが、アーマーカットとシャープな黒使いを、工業テイストのストリートウェアの領域で活かしているブランドは少ない。私がエリオット エミルに可能性を感じるのは、文脈的価値を示した2023AWコレクションが発表されたからだと言える。

工業テイストのストリートウェア、かつ近未来世界ウェアの分野では「ポスト アーカイブ ファクション(Post Archive Faction )」というライバルもいるが、ポスト アーカイブ ファクションのクリーンなサイバー世界に対して、エリオット エミルはアンダーグラウンドなダーク世界に振れているため、しっかりとイメージの差別化ができている。

次シーズンの2024AWコレクションで、エリオット エミルはどんなデザインを発表するのだろう。エレガントなドレッシーウェアか、工業的ストリートウェアか。私はスタイルの方向性に注目し、これからのエリオット エミルを観察していきたい。

〈了〉

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