未来を切り拓くのはミュウミュウ

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AFFECTUS No.471

愛らしいブランド名の響きとは裏腹に、脳内が揺さぶられるコレクションを発表する「ミュウ ミュウ(Miu Miu)」。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)の奇才は、2024SSシーズンでも健在だった。今のミュウミュウは、ラフ・シモンズ(Raf Simons)と共同ディレクターを務める「プラダ(Prada)」よりも、ミウッチャの才能を純度100%で堪能できるブランドだと断言できる。

今コレクションで異彩を放つのは、スイムウェアを取り入れたルックだろう。ビキニタイプのボトム、スイムパンツの色や形に奇抜な点は見られない。ビーチで活躍すること間違いなしの、オーソドックスなデザイン。しかし、アイテム単体として見た時に違和感は感じなくとも、ルックとして全体を見ると印象は一変していく。

青いチェック柄のシャツの上に濃紺のポロシャツを重ね、左胸のポケットにブランドロゴのエンブレムを取り付けたブレザーに袖を通す。シャツにポロシャツをレイヤードする組み合わせは、現実世界から見れば少々異質だが、パリ ファッションウィークの舞台で見れば心地よいアクセント。このままボトムも同テイストのデザインを着用すれば、調和の取れたスタイルが完成する。しかし、ミウッチャが常識に収めるはずがない。

上半身に注目するとトラッドをベースにしたスタイリングだが、ボトムに目を移すと、女性モデルが着用していたのはマスタードのビキニパンツだった。高層ビルやタワーマンションが建つ都市で、ブレザーとビキニパンツを一緒に着て歩く人はきっといないはず。このようにミウッチャは、リアルデザインのアイテムを駆使して異端なスタイルを完成させる特徴を持つ。

彼女のオリジナルワールドは、まだまだ続く。

左胸に白いブランドロゴを配置した濃紺のポロシャツはコンパクトな形状で、ビッグシルエットが浸透した現在では非常に新鮮。来年の夏には取り入れたいシンプルなウィメンズウェア。だが、ボトムはまたも異質だった。女性モデルは、スーパーミニレングスのチュチュスカートを穿き、バレリーナを連想させるボトムは、スイムウェアと共に2024SSコレクションで際立つ存在感を放つ。

もちろん、奇抜な印象のスタイルだけではなく、リアリティを担保したスタイルもしっかりと発表していた。幾度も登場するシャツ&ポロシャツのレイヤードに、ネイビーのワークブルゾンを羽織り、フロントにフリルを縦方向に取り付けて波立たせたホワイトの膝下丈スカートを合わせたルックは、メンズウェアの野生味とウィメンズウェアの可憐さが同居し、上下でイメージのギャップを生み出してストリートでも映えるだろう。

ブラックのVネックニットに、豪華絢爛な刺繍を施したブラックドレスを重ねたオールブラックファッションは、クールなコンサバスタイルを基盤にして完成させていた。もしこのスタイルで女性が街中を歩いていたら、私は30メートル先にいても気づきそうだ。それほどの存在感とカッコよさである。

ミュウミュウのように、非現実的なスタイルを大胆に取り入れてもリアリティが感じられるブランドは稀だが、現在の若手ブランドの中にも、「マリーン セル(Marine Serre)」や「キコ コスタディノフ(Kiko Kostadinov)」のウィメンズラインのように、美しく整えないデザインが現れている。ファッションの新たな発信地として注目のコペンハーゲンも、ベーシックをベースに異端性を表現していく。形、色、素材、ディテールのすべてが複雑で迫力に満ちたファッションは、今のモードでは最先端とは言えない時代が訪れているのだ。

トラッド、コンサバ、スイムウェア、ガーリーと異なるスタイルをドッキングさせた時に生まれるパワーが、ファッションの未来を切り拓く。悪趣味なエレガンスを武器に、ミウッチャ・プラダはミュウミュウガールを世界に解き放つ。これまでの常識が、常識ではなくなりつつある。脳内を更新するときは今だ。

〈了〉

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