AFFECTUS No.474
「メリル ロッゲ(Meryll Rogge)」は、デビューコレクションでサイケデリックなエレガントスタイルを披露したが、以降は緩やかに変化し、3シーズン目の2022AWコレクションは2022年4月10日公開「チープでサイケデリックに変わるメリル・ロッゲ」で述べたように、チープでキッチュな古着ともいうべき味を加える。そしてデビューから6シーズン目を迎えた最新の2024SSコレクションでは、ワークテイストが入り込む新たな側面を発表した。
デビューから貫かれているロッゲの中核はカジュアル。ただし、ロッゲのカジュアルは、トレンドのクワイエット ラグジュアリーの上質で上品なタイプとは違い、古着屋で出会うカジュアルテイストと表現していい。古着屋を訪れると、「なにこれ?」と思う服に出会うことはないだろうか。ロッゲのコレクションには、毎回シリアスな緊張感を崩す外しが見られるのだ。
それは2024SSコレクションでも確認できた。カーキ色のワークシャツとシャイニーな素材感の赤いミドル丈スカートを合わせたスタイルは、水鳥と思える水面を泳ぐ鳥をプリントしたトップスをインナーに着用し、ソックスには黒地に白地の3本線が入ったソックスを履いて、スタイル全体の空気に抜けを作り出していた。
3番目に登場したルックでは、男性モデルは青味がかった淡い色調の半袖トップスを着用していたが、フェミニンなトップスの印象をさらに強めたのは、胸元にプリントされた白い水鳥だった。ボトムは、パフスリーブのように裾が膨らむスーパーショート丈のショーツを履き、ソックスはまたも黒地に白い3本線を写したソックスを合わせている。
ロッゲは、全身ブラック一色でまとめたシリアスなスタイルは作らず、コレクションからクールやシャープといった感覚を排除している。そうかといって、ユーモアに全振りしたカラフルでポップな服を作るわけでもない。シリアルに傾きながらも、張り詰めた空気をやわらげるギャグのように、抜けを挟み込むスタイルを作り出す。だが、緊張した空間でギャグを発し、笑いを取ることはハイレベルの行為だ。言うなれば、ロッゲはそのハイレベルを実現させている服と言えよう。
ここまで述べてきた特徴は、過去のコレクションでも発表されてきた、ロッゲの中核と言えるものだ。2024SSコレクションで新しさを感じたのは、冒頭で述べた通りワークテイストである。
オーバーサイズのカーキ色のトレンチコートは、ウェストに幅広の黒いベルトを巻き、ビッグショルダーのチェックブルゾンは「バブアー(Barbour)」のオイルドジャケットを思わす仕上がり。バブアーのオイルドジャケットは、襟にコーデュロイ素材を使用するが、ロッゲのワークブルゾンも身頃はブラウン系のチェック生地であるのに対し、襟には黒一色の素材が使用されていた。ルック写真を見た限りでは、襟の素材がコーデュロイかどうかの判別はつかないが、外観の印象は紛れもなくバブアーであり、ロッゲはチェック素材とボリュームシルエットを使うことでオリジナルとの差別化を図っていた。
バブアーの名作を思わせるワークブルゾンは、もう1型登場する。今度は身頃に無地の真っ赤な生地を使い、襟と袖口を黒い生地で切り替えていた。先ほどのチェックブルゾンではフロントがボタン開きだったが、赤いブルゾンではファスナー開きとなり、よりワーク感が強い。そして赤いバブアージャケットに、カーキ色のワイドパンツを合わせて、ワークスタイルは完成する。
先述したカーキ色のシャツもワークテイストであったし、他にも着丈が短く、ワイドボリュームの中綿使いに見えるブルゾンも登場して、型数は少ないにかかわらずワークなアイテム群は、コレクション全体のイメージを決定づける強い存在感を発揮していた。
2024SSコレクションでは、ロッゲらしいチープでキッチュなロングワンピースも多数登場し、決してシリアスを作らない姿勢と合わせて、ロッゲの中核をしっかりと見せながら、ワークアイテムを混ぜることで新しさが際立つ効果が生まれていた。
私が思うロッゲの武器にボリューム感がある。毎回発表されるアイテムは、身体を束縛しないワイドなボリュームの形が多い。そうかといって、以前の「ヴェトモン(Vetements)」のような、極端にビッグサイズというわけではない。1サイズ、いや2サイズ上の古着を着ていると表現するのが適切だろう。
「完璧なフィット感ではないけど、デザインが気に入ったから着ているんだ」
そんな服好きの人物が着る服、それがロッゲのコレクションだと言える。ロッゲが得意とするボリュームを形作るテクニックは、ワークウェアやジーンズと相性がいいことを証明した。
ロッゲに革新という言葉は似合わない。きっと彼女は、これからも強烈な印象の服を発表することはないだろう。ロッゲは進化の過程にスピードを求めない。じっくりとゆっくりと、けれど確実に。そうして新しさを作り上げてもいいはずだ。スピードは絶対の価値観ではない。メリル ロッゲは、最速で進化を求める現代にアンチテーゼを打ち込む。
〈了〉