早くも進化を見せ始めるファレル・ウィリアムス

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AFFECTUS No.481

ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)のデビューコレクション、「ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)」2024SSメンズコレクションの発表から約5ヶ月。11月30日、ウィリアムスが手がける初のプレフォールコレクション、ルイ ヴィトンとしては2度目の発表となる2024Pre Fallメンズコレクションが香港で発表された。

夜の屋外でお披露目となったコレクションには、開放感が滲む。照明が照らす道を歩く男性モデルたちには、余裕と贅沢が漂う。ファーストルックに登場したのはダブルブレステッドのスーツスタイル。2列に並んだフロントボタンの横幅がやや狭いために、ダブルジャケットにしてはスレンダーな印象だ。パンツはフレアシルエットを描き、クラシックなスーツが新鮮に映る。注目のアイテムはセーラーハット。ウィリアムスは、今回のコレクションでマリンスタイルを散りばめながら展開していく。

薄手のデニム生地を使用したシャツとパンツのスタイルでも、着用していたシャツの襟はセーラーカラーで、モデルは頭に黒いセーラーハット的帽子も被っており、マリンテイストが強い。また、アメリカントラッドの伝統アイテム、アワードジャケットも襟がセーラーカラーで作られ、意外性のある外観のトラッドアイテムを完成させていた。黒い生地にメタルボタンを使用したダブルジャケットも、海兵が着用するブレザーを思わせる仕上がりだ。

クラシックな服が登場する一方で、トラックスーツ、ショートパンツ&ホワイトソックスと、ラップミュージシャンやストリートボーイの装いも登場して、コレクションはクラシックとカジュアルの境界を行き来していく。

今回のプレフォールコレクションを見ていて、ウィリアムスは独自のシルエットを誕生させたように思えた。ショーではダブルスーツルックが幾度も登場するが、ジャケットのシルエットはスリムで、パンツはフレアを描く。上半身がコンパクトで、絞られたウェストから地続きのようにパンツが緩やかに裾に向かって広がる様子は、ウィリアムスのスタイルを特徴づけるものだ。

ファッションにとってシルエットは重要な要素であり、服装史はシルエットの歴史でもある。シルエットの観点で語られがちな服装史は退屈に思われそうだが(事実、退屈な一面はある)、事実としてシルエットはファッションに大きな影響を及ぼす。エディ・スリマン(Hedi Slimane)、トム・ブラウン(Thom Browne)、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)と21世紀のメンズファッションに大きな影響を与えてきたデザイナーは皆シルエットに特徴があり、男性たちの服装を変革した。

またウィリアムスは、カジュアルアイテムでも特徴あるシルエットを生み出していた。上半身はワイドなシルエット、下半身ではショートパンツ&ソックスという組み合わせで軽さを出し、その佇まいは路上に集まるストリートボーイ的スタイルだ。

そして、ダブルスーツのフレアシルエット、カジュアルアイテムのストリートシルエットは、双方の領域でも応用されていた。シャツ&パンツやスウェット&パンツというカジュアルでも、スーツで展開されたフレアシルエットによって形作られ、カジュアル面でもショートパンツにテーラードジャケットを合わせるスタイリングが見られる。ウィリアムスは、シルエットでも二つの世界を自由に行き来していた。

2024Pre Fallコレクションは、デビュー作である前回の2024SSコレクションよりも一段レベルアップした印象を受ける。要因としては、マリンスタイルのアクセントが大きい。セーラーハットやセーラーカラー、ブレザーといったマリン要素が、クラシックやストリート、トラッドスタイルと混ざり、既存の服装とは一味違う雰囲気を作り出した。

ウィリアムスは、ファッションブランドとのコラボレーション経験が豊富とはいえ、ファッションデザインの専門教育を受けたわけでもなく、ファッションデザイナーとしての豊富な実務経験があったわけではない。果たしてそのような人物が、ルイ ヴィトンという巨大戦艦の舵取りができるのかという疑問があった。だが、デビューコレクション、そしてレベルアップを果たしたプレフォールコレクションを見るに、ウィリアムスはブランドを正しい方向へ導く船長としての資質があったと言える。

ただし、ある領域で超一流のクリエーターなら、誰でも魅力的なファッションを生み出せるわけではない。LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON、以下LVMH)は、世界的スーパースターのアーティスト、リアーナ(Rihanna)と2019年にブランド「フェンティ(Fenty)をスタートしたが、開始から2年後の2021年に休止することになった。休止の理由は、ブランドの業績悪化に加えて、コロナ禍による渡航制限でロサンゼルスを拠点とするリアーナと、パリやイタリアのデザインチームとの連携が困難になったためだと言われている。

他業界のスーパースターを起用するLVMHの手法が、ルイ ヴィトンではどうなるのかと気になっていたが、コレクションを見る限り、ウィリアムスは杞憂に終わる可能性が高い。もちろん、ウィリアムス体制が始まってからまだ約半年であり、ビジネスについてもまだまだ未知だ。ただ、それでも、ウィリアムスはファッションブランドのクリエイティブ・ディレクターとして、期待したくなる才能を発揮している。今後も継続して観察していきたいし、私は一人のモードファンとしてウィリアムのコレクションを楽しみたい。

〈了〉

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