かつては嫌いだった服が、今は好きな服へと変わる

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AFFECTUS No.483

今回は小休止の回とし、コレクションやデザイナーからは離れ、服について語ろうと思う。と言いつつ、いきなり食べ物の話になるが。昔の私はレバー全般が嫌いだった。あの独特の匂いと食感が苦手で何度食べても慣れることができず、レバニラ炒めはもちろん、焼き鳥のレバーも避けていた。だが、いつからか、20代の後半なのか、30代に入ってからか、記憶は定かではないが、レバーの味が受け入れられるようになっていた。

理由は不明だが、味覚に変化が起きていたのだ。さすがに大好きというレベルまでには至っていないが、焼き鳥を食べる時はレバーを注文するほどになった。苦手だった味が、好意的なものに変わっている。この現象は食べ物に限らず、服でも起きていた。

たとえばコート。私にとってコートの素材といえばウールで、形で言えばステンカラーコートやピーコートが私の好むデザインで、購入してから15年は経っている「A.P.C.(アーペーセー)」の黒いステンカラーコートは今も愛用しているし、「カラー(Kolor)」と「ザ・リラクス(The Reracs)」で購入したショート丈のピーコートもA.P.C.のアウターと同様に愛するアイテムだ。

逆に苦手なアウターといえば、ダウンだった。幅広い意味では、中綿も含めた丸みを帯び、ボリュームあるフォルムのアウターにどうしても着用意欲がわかず、自分が着るだけでなく、人が着る姿を見ることにも苦手意識があるほどだった。特にステッチで留めるキルティング型がとりわけ苦手だった。

しかし、ここ数年、ダウンや中綿のアウターに対する意識が徐々に変化し始めている。最初のきっかけは、日本代表するスポーツウェアブランド「デサント(Descente)」のユーティリティウェアライン「オルテライン(Allterrain)」が展開する水沢ダウンを見た時だった。水沢ダウンは私が苦手とするダウンで、しかもキルティング型のジャケットにもかかわらず、クールという感覚を覚える。

それまで私がダウンジャケットに感じていた野暮ったさが皆無の、見目麗しい造形が価値観を揺らす。水沢ダウンを知って以降、「OAMC(オーエーエムシー)」の Lithium パファージャケット、「ポスト アーカイブ ファクション(Post Archive Faction)」の5.1 DOWN CENTERと5.1 DOWN RIGHTと、一目で気になってしまうダウンや中綿アウターが現れ、「無印良品」のダウンジャケットにも惹かれていく。

それだけではない。2022年8月22日配信「ヨウジヤマモトのロングコートが欲しい」で述べたように、今の私はかつては苦手だったブランド「ヨウジヤマモト」にも着用意欲が生まれ始めている。

ヨウジヤマモトは好きなブランドだ。ただし、それはウィメンズウェアのことであり、ボリューミーな形が主役のメンズウェアに関しては、ミニマリズムを愛する私の趣向とはあまりに違い、袖を通したい気分にはなれなかった。だが、今は気持ちに変化が現れた。苦手だったシルエットに、渋さとカッコよさを感じているのだ。ミニマルでクリーンな服を愛してきた自分とは思えない感覚に、自分自身でも驚く。だが、その感覚が楽しかった。

今の私は、自分のスタイルをテクニカルなウェアやワークウェア(このカテゴリーも苦手だった服)に、ヨウジヤマモトのようにクラシックなボリュームデザインをミックスしたスタイルに移行したいと思い始めた。かつて好きではなかった服が、10年、20年の時を経て好きになりつつある。

ファッションはトレンドを追うもので、常に新しくて魅力的なのは「今」。短いサイクルで繰り返され発表される最新スタイルに刺激を受け、興奮を覚えていく。この体験が醍醐味のエンターテイメントが、ファッションだと言えよう。しかし、ファッションには長い歳月によって価値観が変化するという、刺激的体験も存在している。

以前は嫌いだった、好きではなかったアイテムやブランドにも目を向けてみよう。時間の経過が生んだファッションデザインの進化は、あなたの価値観を一瞬にして変えるかもしれない。その瞬間、最新モードに負けない刺激がきっと待っているはずだ。

〈了〉

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