素材に毒々しさをそっと混ぜるセファ

スポンサーリンク

AFFECTUS No.484

現在注目の北欧デザインとして、これまではコペンハーゲンを中心にしたデンマークブランドを取り上げてきたが、スカンジナビアを代表するファッション発信地といえば、スウェーデンを忘れてはならない。1996年、ストックホルムで誕生した「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」は、ファッション界で北欧デザインの存在感を世界に知らしめる存在となり、現在でもモードの最前線を走っている。

今回は、アクネ ストゥディオズと同じくスウェーデンで誕生したメンズブランドを紹介したい。ブランドの名前は「セファ(Séfr )」。ただし、セファは設立時からファッションブランドとして活動していたわけではない。高校で出会ったパー・フレドリクソン(Per Fredrikson)とシナン・アビ(Sinan Abi )の二人は、セファを2012年に設立するのだが、当初はヴィンテージショップとしてスタートしていた。その後、2016年からオリジナルラインを手がけるようになり、現在に至る。ちなみにブランド名のセファとは、アラビア語で「ゼロ」を意味している。

セファのコレクションを簡潔に述べるなら「クリーンなミニマルテイストの中に潜む毒々しさ」だろう。シルエットは基本的にスレンダー。とは言っても、身体に張り付く細さではなく、1サイズ上の服を着ているオーバーサイズと表現できる量感だ。とりわけコートは、ドロップショルダーのシルエットが目立つ。パンツに関しては端正なストレートシルエットが多く、ジーンズはフレアシルエットも散見される。

色使いはベージュ、ブラック、ブラウン、グレーなどのベーシックカラーと、パープル、イエロー、レッド、バーガンディなどの色を挟み込む。色調はどの色も優しく柔らかく、ニュートラルと呼ぶのがふさわしい。セファのデザインで、最も北欧らしさを感じるのは色使いだと言える。

ディテールとフォルムは非常にシンプルだ。セファのジャケットやニットを見ていて、複雑さや大胆さといった感覚を覚えることはない。服を飾り立てることはなく、簡素な形に仕上げられているため、素材感と色の魅力が際立つ。

ブランドサイト(sefr-online.com)で確認できたアイテムの中で、私が最も魅力を感じたものはニット類だった。特にモヘアを使用したカーディンが優しげであると同時に暖かそうで、ニュートラルカラーの色合いも素晴らしい。服の形とディテールは極めてオーソドックスだが、緩やかなシルエット、モヘアの柔らかそうな素材感、優しいトーンの色が見事な調和を見せ、その美しいハーモニーに惹かれてしまう。冬の主役アイテムとして使いたい魅力を感じた。

ここで、疑問に思うかもしれない。では「どこに毒々しさがあるのだ?」と。

セファが毒々しさを込めるのは素材だ。基本的にコレクションは、無地の素材が多用されているが、柄と加工を施した素材が時折使用されている。ブランドサイトを見る限り、発売アイテムではなく参考アイテムのようだが、大胆な加工を施したジーンズがスタイリングに使用されていた。

ジーンズの筒状の前面に、泥を上から下まで塗りたくったような加工は、セファの純潔なミニマルテイストをあえて汚すものだと言っていい。また、「RICHIE TROUSER」と名付けられたパンツは、インド発祥の刺繍入りベロア生地を使用していた。黒地のベロアの表面上に、花々が赤・黄・緑の花々がダークトーンの色で刺繍され、ゴブラン織りのカーペットに通じる重厚な存在感を作り上げている。「MARCEL OVERSHIT」という名のシャツも、ポリエステル製の黒いベロア生地に重厚な花柄を刺繍していた。

「EMILÉ SHIT」は、折り紙のように細く折りたたんだ形状の生地をそのままシャツとして縫製し、「ARTEMESIA TROUSER」はゴールド系カラーのコーディロイに、黒い錆が発生したような加工が施されたパンツである。

このように、セファはコレクション全体はクリーンな味が際立ちながらも、癖の強い素材を挟み込み、「綺麗でシンプルな服」から逸脱させるのだ。しかし、服の形とディテールはベーシックであるために、素材の個性を中和させたアイテムに着地させている。

シンプルな服が好きだけど、物足りなさを感じることがある。アヴァンギャルドは好みではないけど、少しは毒と癖が欲しい。そんなメンズウェアを希望する男性に、セファはマッチするブランドだと言える。

近年の私は、これまでのルールを崩すデザインに興味がわいてしまう。綺麗に整えられた調和が美しい服ではなく、強烈な個性を大胆な手法で完成させる服でもない、それら二つの狭間に存在する服。境界が曖昧なファッションに惹かれていく。自分の見知っていたものが、角度をわずかにずらして見てみたら、新しいものに見えた。そんな体験が楽しいのだ。それはファッションに限らず、小説やドラマ、アニメに共通する現在の私の感覚だった。

セファが教えてくれた。王道もいいが、王道から少し外れた場所に新しい面白さがあるのだ、と。私はこの体験を何度でも味わいたい。

〈了〉

スポンサーリンク