パンクマインドとAIの活用とR13

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AFFECTUS No.487

ファッションブランドは、AIをどのように活用すべきか。この課題に対して、「R13(アールサーティン)」が一つの具体例を示してくれた。R13は2009年設立のニューヨークブランドで、パンキッシュなデザインに定評があり、この「アフェクトゥス(AFFECTUS)」でも2020年4月8日配信「ニューヨークでR13が教えてくれること」で取りあげたが、久しぶりのピックアップとなった今回、まずは先日発表された2024Pre Fallコレクションに言及していこう。

毎シーズン、R13のコレクションは継続チェックしているのだが、近年は興味深い変化がデザインに現れていた。R13と言えば、デストロイなジーンズ、古びれたチェックシャツ、身体を怠惰な空気で覆うシルエット、激しいダメージを帯びた素材加工、鮮烈なグラフィックと、パンクマインド全開のデザインが特徴。だが、2020SSシーズンあたりから、パンクテイストの強さが控えられ始め、代わりに日常的に着られるリアリティが強くなっていく。それは2024Pre Fallコレクションでも同様だった。

色褪せたブルーデニム、グランジなカーディガン、経年変化が現れたチェックシャツ。R13ではお馴染みのアイテムと素材がいくつも登場するが、やはり以前のコレクションよりも強烈な素材加工とグラフィックは抑制されている。

全体の印象を言うならば、「パンクマインドを持つ人物が、ベーシックウェアをパンキッシュに着こなす」というものだ。私が初めてR13を知ったころの破壊的インパクトは弱くなり、クリーンな印象を抱く。まさかR13のスタイルを、クリーンと形容するとは驚きだ。

「パンクでロックでエッジ。アグレッシブにシャープにマニッシュ。周りにどう思われようと関係ない。天上天下唯我独尊。進むのは自らが信じた道のみ。信念を、時代に媚びない孤高のスタイルで、どこまでも貫く。この服を着るに必要なのは痩身のスタイルではなく、他者の視線で揺らぐことのない強いメンタリティ」

これが私にとってのR13だった。だが、現在のR13はパンクな世界観を核に据えながら、その核をソフトタッチで表現するようになった。こう述べると、私がR13の変化にネガティブな印象を持っているように思われるかもしれない。それは逆だ。私はR13が見せてくれた新しい変化によって、以前よりもこのブランドに魅せられている。

ファッションブランドには、強烈な個性が必要だ。もしかしたら、この服を好きになる人は世界中でたった一人かもしれない。だけど、その一人が強烈に愛してくれる服。そんな際立つ個性が、ファッションブランドの魅力を作っていく。

以前、NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演していた「スタジオジブリ」のプロデューサー鈴木敏夫が、「多くの人に愛される作品を作りたい」と話したゲスト(誰だったか、覚えていない……)に、「逆じゃない?たった一人のためにに届けたいと思うものを作ることが、多くの人たちに届くんじゃない?」という旨のコメントをしていた。

多くの人たちに受け入れられる服を作ろうとすると、エッジが削がれて平坦なものが完成し、結果的にインパクトが薄れ、誰にも響かない。一方、個性を研ぎ澄まして作られた最高にエッジの効いたものが、人の心を揺さぶり、その個性に共感する人々に波及し、結果的に多くの人々に届く。

だが、ファッション(に限った話ではないが)は、多くの人々に「欲しい」と思われる必要がある。極端な表現をすれば、ファッションブランドはたった一人にしか愛されない個性を、多くの人たちに愛される服に作り上げるという矛盾を抱えている。

その矛盾を解決する鍵はトレンドにある。ブランドの個性を、トレンドを飲み込んだ上で表現する。そんな文脈的デザインをクニックを持つブランドが、数年、十数年、何十年と人気を保っていく。そして、近年のR13には、ベーシックウェアが愛されるマーケットの動向を取り入れたデザインが見られる。もちろん、R13の意図は違う可能性はあるだろう。だが、結果的にコレクションには、以前よりもシンプルにデザインされた服が誕生している。そこに新しいR13のイメージを感じ、私は魅了されていた。

そして、今回の2024Pre Fallコレクションで驚きだったのがAIを使用したルック写真だ。今回、ランウェイを歩くモデルたち、バックステージにいるモデルたちを捉えたようなルックを初めて見た時、私はショー形式で発表したのかと思った。しかし、「Vogue Runway」によると今回のルックは、服は本物の最新コレクションだが、モデルと背景はAIの生成画像ということだった。剥き出しのコンクリート空間を歩くブリーチヘアのモデル、太陽の光が差し込むことのない地下を思わせる会場、いずれもAIが作り出したビジュアルだったのだ。

だが、発表されたルックはR13のパンクワールドを見事に表現し、私は純粋に「カッコいい」と思えた。とりわけ、チェックシャツを着たモデルを、憂げに横の角度から写したLook No. 25は、今コレクションにおける私的No.1ルックだった。

AIを敵視するのでは、共存していく。そのような姿勢を見せるブランドは他にもある。たとえば、「ダブレット(Doublet)」は、2024 SSコレクションではAIをデザインプロセスに取り入れた。展示会を訪れた際に、デザイナーの井野将之に話を伺うと、AIと会話を重ねがらアイデアを発想したということだった。発表されたグラフィックは、テーマを投げかけてAIが生成した画像もあるのだが、作られた画像にはバグが生じることもあったそうだ。しかし、そのバグを愛しいものとしてグラフィックに取り入れたということだ。

ダブレットはコレクション製作でAIと共生し、R13はコレクションの表現方法でAIと手を取った。これからAIはますます進化していく。最新テクノロジーを、どうのように活用するかというアイデアも、今後のファッションデザイナーには求められるかもしれない。未来のモードは、まだまだ可能性に満ちている。

〈了〉

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