ノードレスを着て壁を越えていく

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AFFECTUS No.489

新年明けましておめでとうございます。今年初めての「アフェクトゥス(AFFECTUS)」は、いつもと違う内容にしようとも考えましたが、そう思ったのは一瞬で、いつもどおり書くことにしました。2024年初めてのテーマは、ウィメンズブランド「ノードレス(Nφdress)」。

ハッピーでキッチュでキュート。言葉を並べると、なんともチープな印象になるが、ノードレスのコレクションにはパワーがあふれている。デザイナーは中国出身のルキ・ユー(Luqi Yu)で、彼女がセントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)テキスタイル科在学中の 2014年にスタートしたブランドがノードレスだった。ブランド設立のきっかけは、自分が心から欲しい服を作ろうという思いで、在学中に住んでいたアパートを拠点に理想のワードローブ作りが始まっていく。

ブランド名の綴りに含まれる“φ”は、ギリシャ文字で「完璧」という意味を持つ。ノードレスは完璧であることを否定する。どこか不完全であっても、自分らしさを大切に生きる。ノードレスは、そんな女性を応援する服と言えよう。

デコラティブなウェアが、エネルギーを訴える。上半身にフィットするコルセットは、イエローベースの千鳥格子調のチェック素材を使用し、服装史の教科書に掲載されている衣服がフェミニンに生まれ変わったかのよう。フロントがジップ開きのフリースジャケットは、毛羽だった表面に「RS」のロゴをアールヌーボー的曲線を用いた刺繍で表現し、立体的装飾性を演出する。

2023AWコレクションで発表されたアイテム “X RoomSERVICE888 Purple Devil Horns Detachable Shawl Balaclava” は、童話『赤ずきん』の少女を思わせるフォルムで、頭巾と呼びたくなるデザインだ。素材は淡いパープルで染められ、甘くノスタルジックな一方で、フードからは角が2本生え、『赤ずきん』に登場する狼のようにメルヘンな怪しさを醸し出す。

ノードレスのスタイル自体は、キレのあるガールズファッションだと言える。スカートやドレスの丈はミニレングスが多く、シルエットもスレンダータイプが多い。もし、それらのデザインをブラックやグレーのモノトーンカラーで製作すれば、装飾性を備えたクールなウィメンズウェアが誕生するだろう。しかし、ノードレスは全力で甘い世界に振れていく。シャープやモダンという形容とはまったく別のファッションで、女性を装うのだ。

メッシュ生地とレースを組み合わせたボディスーツがそうであるように、肌を見せることも厭わない。ピンクやイエローを中心にした色使い、レースや刺繍を多用する繊細な素材感とは打って変わり、ノードレスはどこまでもアグレッシブで力強い。甘さを甘く仕立てた服を、好きな人間ばかりではない。甘さを辛く仕立てた服が好きな人間も世界にはいる。ノードレスは、そんな人々の期待に応えていく。

コレクションを見ていると、清々しさを覚えてきた。デザイナーのユーは、自分の好きをこれでもかと全身全霊で表現する。誰もが自由にレビューできる時代、世間の声が気になってしまうのは当然のこと。批判されて嬉しい人間はいないだろうし、少しでも多くの賞賛を聞きたいはず。私だってそうだ。しかし、ユーが耳を傾けるのは自分の内なる声。そう思えてしまうほど、ノードレスはエネルギッシュだ。

きっと突き抜けたパワーは、人の趣向を超えて人の心に響く。

「こんなファッションがあったんだ。これが私の着たい服だ」

1秒前には想像もしていなかった服。だけど一目見た瞬間、1秒もかからずに魅了され、自分の新しい感性に気づかされる。これこそファッションの醍醐味であり、私にとってファッションの原体験。

そして、ファッションにはユニフォーム的側面がある。ある暮らし、ある気分、ある姿勢で過ごすためにふさわしい服が世界にはある。自由を愛するなら、ノードレスをその手に掴み取ろう。常識を超えて、未来を切り拓くためのパワーが、あなたの挑戦を後押しする。

〈了〉

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