バスケではなく、
バスケカルチャーを表現するネームセイク

AFFECTUS No.322

「今、注目しているブランドは?」

展示会を取材している時や、ファッション好きの友人や知人と話している時、気がつくとこの話題になることが多い。これがなかなかの難問で、すぐに返答することが難しいのだが、最近の私が真っ先に名前を挙げるブランドは、台湾を拠点にする「ネームセイク(Namesake)」であることが多い。昨年は「LVMH PRIZE」セミファイナリストにも選出され、世界的注目度も高まっているメンズブランドだ。

ネームセイクを語る上で欠かせないもの、それはバスケットボールになる。ブランドの創業者であり兄弟でもあるスティーブ・シェイ(Steve Hsieh)、マイケル・シェイ(Michael Hsieh)、リチャード・セイ(Richard Hsieh)の3人はバスケットボールへの愛情をコレクションに注ぎ込む。そのことは、昨年6月に発表された2024SSコレクションでも証明されている。

“TIMEZONE” と名付けられた本コレクションは、時間という概念を視覚化していく。ショーで登場するネクタイルックは、シェイ兄弟の記憶を隠喩的に示すものだった。シェイ兄弟が幼かったころ、彼らの父親はいつもネクタイを巻いていたそうだ。子供の時に何度も見たネクタイ姿の父親は、シェイ兄弟の中で「大人になることはネクタイを巻くこと」を意味するようになった。また、ボトムのパンツは砂時計の形にシルエットが作られ、アイテムの輪郭でも時間の視覚化を試みている。

2024SSコレクションでは、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、アリス・アザームサ(Aris Azarmsa)とコラボレーションを行い、シェイ兄弟が愛しているボールスポーツがグラフィカルに表現される。レブロン・ジェームズ(Lebron James)、アレン・アイバーソン(Allen Iverson)、コービー・ブライアント (Kobe Bryant)。いずれもバスケ史に残る偉大なプレーヤーたちのドラフト当日の姿をアートワークとして制作後、メッシュ生地にプリントしてアイテムに用いていく。先述のネクタイも生地の柄もよく見ると、バルケットボールが拡大されたものが描かれていた。

このコラボグラフィックを、ショーツと白いロングソックスを用いたスポーティなルック(1980年代のNBAプレーヤーのようだ)にプリントするだけでなく、アワードジャケットやテーラードジャケットなどのトラッドスタイルにも取り入れ、スタイルの多様化を図っていた。アイテムのパターンは、切り替え線がアイテムを横断したり、服に穴を開けるカッティングを施すなど、いわゆるクリーンでシンプルな服とは一線を画す挑戦的構造だ。シルエットはストリートボーイのようにルーズで、ファッション伝統の上質なエレガンスとも距離を置く。

ネームセイクは、バスケットボールをブランドの中核に据えているが、コレクションは一見すると、バスケが背景にあるとは思えないルックも多数登場する。スポーツをテーマにしながらも、スポーツの匂いが薄れていると表現すべきか。その要因は、トラッドのようにスポーツスタイルとは距離を置いたアーバンルックが、数多く混ざっているからだろう。

ボールスポーツをテーマにしたファッションは、ユニフォームなどを取り入れてダイレクトに表現されがちだ。サッカースタイルのブロークコアも、サッカークラブのシャツを着るダイレクトな手法のスタイルである。ネームセイクも過去のコレクションを見れば、ユニフォーム的カッティングのトップスを取り入れたルックはあるのだが、バスケを婉曲的に表現したルックの方が多い。

2024SSコレクションではトラッド、挑戦的なパターンワークというファッション王道のスタイルとデザイン手法を使い、バスケの匂いをいい意味で薄めている。その結果、ユニフォームを着用した直接的表現のルックとは違う、奥行きのあるバスケスタイルが誕生した。いや、バスケスタイルと言うのは間違っているだろう。バスケカルチャーを、ファッション伝統のスタイルに溶け込ませたと表現する方が正しい。

スポーツ、とりわけボールスポーツをブランドコンセプトに取り入れるなら、ユニフォームや選手のファッションを取り入れるダイレクト手法ではなく、スポーツのカルチャーから発想してスタイルに取り入れる。そうすることで、コレクションに深みが増す。ドラフトは、NBAにとって新選手を獲得する重要なイベントであり、バスケットボールの文化と言えるもの。そのカルチャーをアーティストとのコラボレーションでグラフィックを作り上げ、スポーティルックとスポーツから離れたトラッドスタイルにも取り入れていく。ネームセイクの手法は、非常にテクニカルなアプローチだと言えよう。

改めてコレクションを見ると、やはりネームセイクのデザインセンスには強く惹かれていき、書籍を読んでいる気分になってくる。私にとって「ファッションを読む」体験をさせてくれるブランドが、この台湾ブランドだ。これからもシェイ兄弟のクリエイションに注目していきたい。

〈了〉

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