AFFECTUS No.492
1月12日から16日まで2024AWシーズンのミラノ・ファッションウィーク・メンズが開催され、1月16日からはパリ・ファッショ・ウィーク・メンズが始まる。いよいよ最新シーズンの到来だ。今シーズンもきっと興味深いコレクションは発表されるだろうし、新たなブランドやデザイナーの名もき目にすることだろう。実際、パリの2024AWシーズン公式スケジュールを眺めていたら、これまで取り上げたことのないブランドの名前をいくつか発見した。本日はその中の一つ、「ブルク アキョル(Burk Akyol)」を紹介したい。
デザイナーはブランド名と同じ名前で、トルコ系フランス人のブルク・アキョル。アキョルの父親は仕立て屋であり、彼は幼いころから服作りの手ほどきを受けて育つ。フランスの「アンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モード(Institut Français de la Mode. Mode)を卒業し、デザイナーとして多くのフランスメゾンで経験を積んだのち、自身のブランドを2019年に設立する。
アンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モードは、二つの学校が統合された新学校である。だが、前身となる学校の歴史は古く、アンドレ・クレージュ(André Courrèges)やイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)など、偉大なクチュリエを輩出した歴史を持つ、パリオートクチュール組合が1927年に創設したモードファッション校「エコール・ドゥ・ラ・シャンブル・サンディカ・ドゥ・ラ・クチュール・パリジェンヌ(Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne)」は、スキルを重視したクリエイティブ面の人材育成に歴史があった。
そしてもう一校は、サンローランの公私におけるパートナーであり、メゾン「イヴ・サンローラン」の創設者でもあるピエール・ベルジェ(Pierre Berge)が設立した「アンスティチュ・ドゥ・ラ・モード(Institut Français de la Mode)」(通称IFM)である。1986年設立のIFMはファッションデザインの教育も行うが、マーケティングやマーチャンダイジングといったビジネス面の教育と連動し、競争激しいファッション界で活躍するプロフェッショナルな人材育成に力を注いでいた。この二校が、2019年に統合されて誕生した学校が、アンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モードということになる。
オートクチュール協会が設立した学校は、日本では「サンディカ」という名で知られ、私の文化服装学院時代の同級生も留学していた。話を聞くと、ファッションデザインというより、服を作るための技術を学ぶための学校という印象を受けた。アキョルの略歴を見る限り、彼は二校が統合される前のサンディカ時代に通っていたと思われる。
アキョルのコレクションを見ると、まさに彼の歩みを実感するデザインが確認できる。デザインアプローチの主役はカッティングだ。アキョルの服は服の曲線が艶かしく美しく、着る人をアンドロジナスな魅力で装う。中には「リック オウエンス(Rick Owens)を思わす、異様に突き出たショルダーデザインのアイテムもあるが、サテンやスパンコール刺繍の素材を使っているため、アヴァンギャルドというよりも妖艶なエレガンスが際立つ。
肉体の強調も力強く表現するのではなく、人間の身体が持つ輪郭をなだらかなラインで見せることが多い。薄手のシルクなど露出度の高い素材を積極的に用いて、肌を見せるカッティングも組み合わせていく。加えて色使いの主役はブラックなので、コレクションはますます妖艶な魅力を増幅させている。
シルエットは基本的にスレンダーだ。細身の形を基盤にして、ショルダーラインを誇張した造形のジャケット、逆にノースリーブやフレンチスリーブで生身の肩を見せるなど、肩を作り込む・晒すという両面のアプローチで表現したアイテムをスタイリングし、人間の肉体表現に取り組む。ドレスはアキョルを象徴するアイテムで、ロング&リーンシルエットで作られ、肌を透かす薄手生地の多用とドレープ性のあるフォルムデザインによって、非常にドレッシーな仕上がりだ。
以上の特徴を持つアイテムを、アキョルはメンズ・ウィメンズ双方で展開する。結果、コレクションはジェンダーレスな香りを強く放つ。ストリートウェアと同様に、今やジェンダーレスは一過性のトレンドで語るものではなく、ファッション普遍の要素となった。どのように解釈し、どう表現するのか。そこにデザイナーのセンスが現れるが、アキョルは人間が根源的に持つセクシーな美しさを引き出そうとする。
ややウェスト位置が高く、ワイドなフレアシルエットを描くブラックパンツは、地面に裾がつくほど長いレングスで作られ、そのパンツを穿いた男性モデルは黒いチューブトップを着用し、ランウェイを歩く。ボトムはマニッシュでクラシック、トップスはウィメンズウェアの王道をいく。男性と女性、双方のウェアが交差するスタイルには、「性別に関係なく、今最もセクシーなファッションとは何か、一緒に考えてみませんか?」とアキョルに問い掛けられた気分になる。
「肉体のラインを強調することがセクシーなのか?」
「素材はシルクを使えばセクシーなのか?」
「色に黒を多用すればセクシーなのか?」
「肌を見せればセクシーなのか?」
アキョルは性別の境界を超えて展開する様々なデザイン手法によって、セクシーの定義を問う。ファッション界では自然に使われ、言葉にすれば安易な響きもにも感じられる「セクシー」。しかし、そこにはもっと奥深く魅力的な世界があるのではないか。ブルク アキョルは、ファッションの伝統に立ち向かう。
〈了〉