JW アンダーソンのメンズウェアは2度楽しめる

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AFFECTUS No.495

ウィメンズとメンズの双方を手がけるブランドとデザイナーは多い。「JW アンダーソン(JW Anderson)」も男女の服を手がけるブランドの一つで、どちらのラインもハイレベルなデザインを披露してきたが、最近の私はメンズコレクションの方に惹きつけられている。それは、ミラノで発表されたJW アンダーソンの2024AWメンズコレクションを見て、改めて実感したことでもある。

JW アンダーソンのメンズは、いったい何が魅力なのか?

その理由は、コレクションのフィナーレを見ることで明確になった。現在のJW アンダーソンには、デザイナーであるジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が着ているワードローブを、ランウェイ仕様に仕上げたリアリティと実験要素が混じり合っている。

*以降、ブランド名は「JW アンダーソン」、デザイナー名は「アンダーソン」と明記。

アンダーソンが観客への挨拶でコレクションの最後に登場する時、彼の服装は至ってシンプルで、近年はよりカジュアルになってきた印象だ。今回の2024AWメンズコレクションでは、ブルー&パープルとも言える色調のクルーネックニット(「ユニクロ(Uniqlo)」で発売してそうなデザイン)」をトップスに着用し、パンツは薄い色味に褪せたジーンズを穿いて現れた。

昨年9月に発表された2024SSウィメンズコレクションでアンダーソンは、今回の2024AWメンズコレクションと同じニット&ジーンズを身につけていた。2024AWメンズコレクションとの違いといえば、ニットの色がダークカラーに変わっただけだろう。

毎回フィナーレに登場するアンダーソンの姿を見ていると、ユニクロの広告にモデルとして起用されたとしても不思議ではない。彼は、JW アンダーソンとユニクロのコラボレーションを通して、究極のカジュアルウェアに愛着が湧いてきたのではないか。そう思ってしまうほど、アンダーソンの服装はカジュアルかつシンプルだ。

ショーの最後に登場するデザイナーの姿は、およそ3種類に分けられる。一つ目は「クリスチャン ディオール(Christian Dior)」時代のジョン・ガリアーノ(John Galliano)が披露していたように、自ら派手に装うタイプである。

二つ目のタイプは、アン・ドゥルメステール(Ann Demeulemeester)やガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)のように、自らデザインした服を着用していると思われる服装である。

そして三つ目のタイプは、自分のデザインした服を着用せず、非常にシンプルなファッションを着るデザイナーだ。フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)がフィナーレ時に見せるスタイルは、驚くほどシンプルなのだが、そのシンプルさがやけにカッコよく映っていた。そして、アンダーソンもこの3つ目のタイプに属する。元々、アンダーソンが着る服はシンプルだったが、近年は先述したようにカジュアル化が深まっている。

JW アンダーソンの2024AWメンズコレクションは、ビッグシルエットのアイテムが多かったが服の形自体はシンプルで、アイテムもメンズのベーシックアイテムが頻繁に登場し、スタイリングもレイヤードで変化をつけるといったテクニックは用いず、ニットにパンツを合わせるなどシンプルなものだ。

ただし、形は簡素だが、ディテールと素材に変化を加えている。2024AWメンズコレクションでは、ショーツに薄手の黒い生地を使用し、ランジェリー的ニュアンスを作り出す。厳密に言うとショーツではなく、ブリーフとボクサータイプの中間とも言えるカッティングのパンツの上に、薄手の黒い布で作られ、丈が少し長いボクサータイプのパンツをレイヤードしたボトムになる。アイテムの構造と素材はシンプルだが、インパクトはシンプルを超えたものだ。スタイリングについても、アンダーウェア的ボトムに、シュルレアリスムの絵画的グラフィックのニットを合わせるなど、日常着とは到底呼べない高いデザイン性を披露している。

私が最も注目したアイテムはトレンチコートだ。左前身頃の衿に少々アレンジはあるが、基本的にはディテールも形もオーソドックス。しかし、ドロップショルダーのシルエットに仕上げられ、エポーレットの付いた両肩がルーズに落ちている伝統の1着は、ナイトウェア的色気と艶が滲む。

これらのデザインは2024AWコレクションの一例に過ぎないが、形はシンプルに仕上げながら、素材の組み合わせ、ディテールのアレンジ、ビッグシルエットによって、ベーシックアイテムの原型から遠く距離を置いたモードアイテムに変身させた服が、JW  アンダーソンのメンズウェアである。

「自分の着たい服を作る」

それもデザイナーが示す一つの姿勢だろう。一方で、自分が普段着る服とは異なる服を作るデザイナーもいる。アンダーソンは前者とも後者とも違う。彼は、自分が普段着る服をモードレベルに昇華させ、まるで仮想の自分のためにメンズウェアをデザインしているかのようだ。

現在の自分のための、リアルな服を作らなくてもいい。架空の自分のための服を作るリアル。そんなアプローチでファッションをデザインする面白さが、JW アンダーソンのメンズウェアにはあった。やはりアンダーソンは稀有な才能と視点の持ち主だ。JW アンダーソンのメンズコレクションを見る際は、ショーのフィナーレにも注目しよう。アンダーソンの服装を確認したら、再度ルックを振り返ってみて欲しい。2度目に見る世界にも、楽しみがきっと待っている。

〈了〉

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