エゴンラボならば、2度惚れることができる 

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AFFECTUS No.497

初めて見たコレクションでスタイルの個性に魅了され、そのブランドを好きになる。これはファッションブランドのファンになる過程で、数多く見られる事例ではないだろうか。しかし、1度愛したブランドへの思いはそこで終わらない。ファッショブランドには、「2度目の惚れ」という現象が起こるのだ。パリ・ファッションウィーク・メンズの2024AWシーズンを見ていたら、私は「エゴンラボ(Egonlab)」のコレクションに「おや?」という感覚を覚えた。やがてその違和感は、エゴンラボの新境地を見られた嬉しさに変わっていく。

私がエゴンラボを初めて知ったのは、2022年1月に発表された2022AWコレクションを見た時だった。黒を主体にしたメンズウェアは、厳かなセレモニーに参列するための服に感じられ、どこか宗教的ムードを醸していた。既存のクラシックファッションの概念を捩り、完成させた服とでも呼べばいいだろうか。これまで見たことのある服が、これまでに見たことのない服に見えるという、私が最も愛するファッション体験をエゴンラボはもたらしてくれた。

以降、私は毎シーズン、エゴンラボのコレクションを観察していく。

いつ見てもエゴンラボは、厳粛なムードでアンドロジナスな装いを形にする。黒い生地で仕立てたテーラリングには、男性特有の筋肉質な力強さはない。

「強さという価値観では測ることのできない、男性の美がある」

そんなメッセージが聞こえてきそうなほどに、漆黒のジャケットを着た男性モデルの姿は艶めかしく美しい。1月18日に発表された2024AWコレクションでも、エゴンラボのエレガンスは健在だ。

横方向にまっすぐ突き出たショルダーライン、セクシーにシェイプしたウェストライン、彫刻的立体感でヒップを包み込むシルエットは、ウィメンズウェアのドレスに通じる妖艶さで、ランジェリー的香りも漂わせる。外着でありながら、下着に通じる色気を放つ。これもエゴンラボの特徴だ。

ブランドの代名詞と言えるルックを見ていると、私はエゴンラボの変化に気づく。そのきっかけとなったのは、デニムウェアである。ショーの中盤に差し掛かると、エンジ色のオーバーサイズニットを着用したモデルは、裾がほつれ、大腿や膝に穴をあけた、色褪せたブルージーンズを穿いていた。ワイドシルエットのルーズな量感と、グランジな加工は、これまでのエゴンラボにはないデザインだ。

その後もデニムウェアの発表は続く。フォークロア的フレアシルエットのジーンズも太腿に穴を開け、襟端や胸元のデニム生地がほつれたGジャン、茶色く汚れたルーズシルエットのジーンズなど、厳粛なブラックウェアとは真逆のダメージデニムが頻繁に登場し、ショーの終盤が訪れると、激しい錆加工を施したように、ひどく汚れて燻んだGジャン&ジーンズを着た、デニムオンデニムルックがランウェイを歩いていく。

エゴンラボで、これほどの数のデニムウェアが発表されたことはなかったはず。しかも、以前のエゴンラボならば、デニムをシックなトラウザーズ風味に仕上げたはず。だが、今回は大きく異なる。端正なデザインではなく、グランジに振ったデザインでジーンズとGジャンを製作していたのだ。

しかし、エゴンラボのエレガンスが失われたわけではない。男性の肉体を艶っぽく妖しく形作るカッティングは健在だ。むしろ、テーラリングと対極のカジュアルな綾織素材を用いたことで、エゴンラボが標榜する性別を超えた美がいっそう際立つ結果となった。

ブランドに2度惚れる時は、意外性に襲われた瞬間だ。1度目に惚れたスタイルが発表されると思いきや、登場したのは思いもしなかったスタイル。だが、ファンの期待を裏切るスタイルを、ブランド得意の武器とイメージで料理するからこそ、クリエイティブな驚きが生まれ、心が掴まれる。エゴンラボは、モードなディナーを通じて人々を落としていく。一皿にファッションへの熱を込めて。

〈了〉

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