煌めくヤクザがランウェイを歩くアミリ

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AFFECTUS No.498

TBSテレビ金曜ドラマの枠は、注目の作品が放送されることが多い。1月29日から放送が始まった『不適切にもほどがある!』は、昭和の中学校に勤める体育教師が、あるきっかけで令和の時代にタイプスリップし、昭和の感覚で令和の人々に物申していく。阿部サダヲ演じる主人公の体育教師は、昭和の人間なので、現代であれば「不適切にもほどがある」発言を繰り返すのだが、それが令和の感覚に一石を投じる。

最近、興味深いと感じたものが、ELLE “Is This The End Of Our Wellness Era?” という記事だった。記事では、タバコを吸うことがブームになりつつあり、ヴィーガンレストランが生き残りのために必死な経営状況で、代替肉に対する需要が落ち、パーティーが開催され、快楽的な活動が復活し始めたことが述べられている。

現代の主流となり注目されていた考えや行動とは対極の、かつては世の中の主流で、現代では時代遅れになったはずの習慣が再び注目され現れ始めた。社会の変化は、社会と密接に結びつくファッションにとって見逃すことはできない。

近年、ファッション界ではサステナビリティが注目され、リアルレザーの使用が控えられることが増加し、ジェンダーレスデザインのアイテムも当たり前で、「女らしさ」「男らしさ」という言葉は前時代のものになった。一方で、展示会を取材していると、リアルレザーを使用したアイテムを目にする機会が増え、各都市のファッションウィークでも、メンズウェアならではの個性、ウィメンズウェアならではの個性を探求するコレクションが散見されるようになっている。

一つの流れに対して、異なる流れが生まれ始めるのは世の常。ファッション界にもその兆候が現れ始めているのかもしれない。マイク・アミリ(Mike Amiri)の「アミリ(Amiri)」は、1月18日に発表された最新2024AWメンズコレクションで、男臭さを匂わすファッションを、ロサンゼルススタイルと融合させて発表した。

2014年に設立されたブランドは、音楽性とストリートを混合したメンズウェアが特徴だ。アミリのスタイルは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)の文脈に連なるが、スリマンよりもストリート感が強い。また、シーズンによってはアメリカントラッドに通じるクリーンな香りもしてきて、スリマンとはコンテクスト的に枝分かれしたスタイルである。

デザイナーのアミリは、ファッションの専門教育を受けたことがない。このあたりも、スリマンと共通する点だ。しかし、スリマンが一貫してクリエイティブ・ディレクターの道を歩むのに対し、アミリは早々にシグネチャーブランドを立ち上げ、キャリアの選択は異なる。

私がアミリの2024AWコレクションに引き寄せられたのは、従前のデザインよりもアウトロー色が強まっていたことが理由である。先ほど述べた通り、アミリはストリートな雰囲気がブランドの特徴であり、ルックからはストリートボーイと言うべき若さが立ち上がっている。しかし、2024AWコレクションのルックも同じように若さを感じるのだが、ストリートボーイとは異なる道を歩く若者に見えた。

それがヤクザだ。

注目すべきは、シャツとジャケットの着こなしで、シャツの襟を、ジャケットの上衿の上に重ねるスタイルである。私は昭和のヤクザ映画に登場するファッションを連想した。シャツの襟は、ジャケットだけでなくブルゾンでも重ねられ、このスタイリングが全51ルックの中で何度も登場する。また、シャツのフロントボタンを外して、シャツの下に着用しているインナーを見せる着こなしも、昭和のアウトローを彷彿させた。

もちろん、アミリのモデルたちは、北野武監督の映画に出演する俳優たちとは異なる。パンツはワイドなシルエットながらも、優雅なボリュームを形作り、グレージュやブラウンピンクといえる淡く品のある色の素材が、シャツやジャケット、ニットに使用され、危険とは無縁である富の世界で暮らす若者たちのためのファッションといえよう。ただ、クリーンなムードはこれまでのアミリと共通するのだが、着こなしに関しては異なる世界線である。2024AWコレクションのアミリは、クリーンでフレッシュな煌めくヤクザスタイルだ。アミリの新スタイルが、私にはとても新鮮だった。

時代が変われば、価値観は変わる。しかし、新しい時代の新しい価値観が続けば、その価値観に異を唱える価値観は必ず現れる。社会が変化したからファッションが変化するのではなく、ファッションの変化が社会の変化を促すことだってある。ファッションには、私たちの想像を超えたパワーが潜んでいる。

〈了〉

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