展示会レポート Almostblack 2024AW

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2月に入り、東京では展示会が次々に開催され、日本ファッション界は2024AWシーズンのピークを迎えている。今回は2月9日に展示会を訪れた「オールモストブラック(Almostblack)」の2024AWコレクションについて話していきたい。2015年設立のメンズブランドはコンセプトに「POST JAPONISM」を掲げており、2021年からはコンセプトをより強く体現するように、勅使河原蒼風、細江英公、白髪一雄・富士子といった、華道・写真・絵画を代表する日本人芸術家とコラボレーションするコレクションを発表してきた。

コラボコレクションというと通常は1シーズンで終わることも多いが、オールモストブラックは日本人芸術家とのコラボコレクションを、2シーズンに渡って継続発表する。今回取材に訪れた2024AWコレクションは、現代書家の井上雄一(1916年-1985年)とのコラボレーションであり、このコラボも翌シーズンの2025SSシーズンにおいても継続される。

井上雄一は、日本国内で前衛芸術が盛り上がり始めた戦後に、「書の解放」を目指し、保守的に思えた書道界に挑戦的な作品を発表した書道家である。1957年、ブラジルのサンパウロで開催された現代美術の大規模国際展覧会「サンパウロ・ビエンナーレ(Bienal Internacional de Artes de São Paulo)」で代表作「愚徹」を発表し、海外の美術評論家に絶賛され、彼の書は日本から世界に知られていった。

オールモストブラックの2024AWコレクションは、井上雄一の書をグラフィカルに表現したモノトーンウェアが特徴だ。先述の「愚徹」に加え、「花」「貧」「母」といった井上雄一の代表作である書を、服の背後など様々な箇所にダイナミックなサイズで再現し、黒と白の服に芸術性を滲ます。また、筆にたっぷりとついた墨汁が飛び散る様も表現され、ブルゾンの胸元や袖には飛沫が現れていた。

しかし、オールモストブラックのデザイナー中嶋峻太の試みは、グラフィカルな手法にとどまらない。背中を丸めて一心不乱に書く姿勢など、井上雄一が書を書く際の特徴的な身体から着想を得て、その姿を服のパターンに落とし込んでいく。

前屈みになった井上雄一の身体から発想されたテーラードジャケットは、肩線が通常のジャケットよりも前身頃側へ入り込み、その形状に従って袖も前振りに縫い付けられている。黒いジャケットがハンガーに掛かっている様子は、服から息吹を感じるようでさえあった。

2024AWコレクションは、一見すると井上雄一の書から発想されたグラフィックが印象的だが、服のフォルム自体が素晴らしい。私は1着の黒いブルゾンを試しに着てみた。MA-1を連想させるブルゾンはワイドなボリュームで作られ、横方向への大胆さに比べて着丈は短い印象を持つ。しかし、アンバランスに感じられた形が、私にはなんとも魅力的だった。それは井上雄一の書に通じる大胆さと繊細さが、服として具現化されたものに思えたのだ。

先述のテーラードジャケットだけでなく、パンツやニット、コートなど様々なアイテムで形作られた力強いフォルムに目がとまっていく。ダイナミックな形の上に、井上雄一の破天荒な迫力の書が乗っていき、オールモストブラックは輝く。デザイナーの中嶋はファッションを通し、日本の芸術家を伝えることに情熱を燃やしている。

やはりデザイナー自身が魅了されたものを、服に投影するコレクションはパワーに満ちている。音楽、芸術、映画、スポーツ、様々なカルチャーの中からデザイナーが虜になったものを服にして表現する手法は、ファッションデザインとして珍しいものではない。だが、現代でも多用される手法ということは、コレクションにパワーをもたらす手法であることの証明だ。デザイナーの情熱は如実に服へ現れる。創造の炎が灯った服には抗えず、心が揺れてしまう。

オールモストブラックには、1990年代後半のモードに通じる空気感を感じる。あの時代の熱と濃さが、現代ファッションとして再現されている。そんな個性が迫ってくるブランド、それがオールモストブラックだ。

日本の芸術をモードの文脈に乗って表現する中嶋のデザイン。今のオールモストブラックには、今まで知らなかった日本の美を知る「智」と、見るだけで高揚する服を生み出す「創」、二つの魂が混在する。灯された黒い炎はきっと消えることがない。

Official Website:almostblack.jp
Instagram:@almostblack_official

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