展示会レポート Maison Mihara Yasuhiro 2024AW

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ファッションにとってトレンドは、完全に無視できるものではない。自分が本当に作りたい服を作る。それはファッションデザインの核心となる姿勢だろう。だが、トレンドをまったく知らずに作る場合と、トレンドを完全に知った上で作る場合では、たとえトレンドに反した服を作るとしても、きっと完成したコレクションに大きな差が出るのではないか。たとえば、アマゾンの奥地でインターネットから隔絶されて365日暮らしながら、東京やニューヨークで暮らす人々が着たくなる、現代の最新ファッションを作ることはできるのだろうか。

今日は先日訪れた「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison Mihara Yasuhiro)」2024AW展示会について話していきたい。会場で私はファッションのパワーを感じる。迫り来る圧力の源泉は、トレンドへのアンチテーゼと言えるものだった。

まず、2024AWコレクションについて、デザイナーである三原康裕が語る言葉を紹介したい。

「私は眩い時代の変化についていけないだろう。
ついていくどころかよろめいてさえいる。
未来へのビジョンは掠れていき、足元すらぼやけてしまう。
ただ、夜中のラジオから聴こえる古い音楽に揺れ、
老いたバレリーナのように自由を満たしてくれる。
このよろめいきはいつまで続くのだろうか」
三原康裕

「WOBBLER PART FOUR」と名付けられた最新コレクションは、三原が11歳ごろに初めて訪れたディスコの体験がきっかけとなっている。キラキラして光り輝く、幼い自分が足を踏み入れた夜の世界は、大人になって改めて同じ夜の世界を見ると、本当に子どもっぽいと思えた。三原は自身の感覚を取り入れ、今回のコレクションを製作する。

展示会場に並んでいた服には、艶のある素材、煌びやかな素材を使用したアイテムが見られた。

摂生とは無関係の享楽的世界が、私の頭の中に描かれる。

ラックに掛けられた服はいずれもビッグシルエット。いや、ビッグシルエットと表現するのはおとなしい。袖も着丈も長すぎる。あまりに長すぎる。身体を呆れるほど誇張するスーパービッグシルエットだ。

素材で圧力を訴えるだけでなく、形でも圧力を訴える。パワフルなアプローチは、柔らかなカットソー素材のフーディでも、肩パッドを詰めることで実践されていた。

圧力は素材の加工でも具現化された。多くのアイテムがヴィンテージ調に表現され、燻みや汚れが生地の表面を覆い、服には穴が開けられ、真新しいはずのアイテムが徹底的に痛めつけられている。それはもはやヴィンテージ調と称するのでは生ぬるく思え、デストロイと言ったほうが正確だ。最も破壊度が激しかったデストロイウェアは、デニムジャケットとMA-1を融合したブルゾンだった。

デニムは引き裂かれ、ほどけた糸がぶら下がり、穴が卑しく開いている。破壊され尽くした綾織生地の下からは、ベーシックを代表するミリタリーブルゾンが覗く。メゾン ミハラヤスヒロ得意のドッキングパターンと極限のダメージ加工が、重力が何倍にもなったようなヘビーな服を作り出す。

デニムは2024AWコレクションの主役と言える素材だったが、フレッシュさは皆無。ダメージ、ダメージ、ダメージ。新しくあることが罪と思えるぐらい、デニムは退化している。パファージャケットのシリーズは、厚みと重みと澱みを充満させていた。

今コレクションの中で比較的にシンプルだったテーラードジャケットは、古着屋で見つける服の風合いを再現していた。生地に生じたアタリは、味わい深い時間の経過を感じさせる。

コーデュロイシャツは、胸のポケットが取り外され、ほつれた糸が儚い。チェックシャツ、スカジャン、ジーンズと古着屋の王道アイテムがラックに並ぶ様子は壮観だ。

スニーカーの新型「KEITH」は、1980年代に登場したバスケットボールをベースに、ソールを誇張する。ウィメンズのシューズは、こぼれ落ちそうなソフトクリーム・歯磨き粉のチューブ・アヒルを模したモチーフが取り付けられていた。会場の隅には、巨大な靴紐を結べないオブジェが堂々と立つ。メゾン ミハラヤスヒロに「シンプルで綺麗に」という概念は存在しない。

なんなら熊だって歩いている。

お土産にもらったチロルチョコはユーモアで飾られ、三原自らが登場する。

現在のトレンドの一つはクワイエット・ラグジュアリーと呼ばれる、高級感あふれるシンプルウェアだが、メゾン ミハラヤスヒロは世界の潮流と逆行する。ビッグシルエット、デストロイ加工、ドッキング、いずれも特別新しい手法ではないかもしれない。しかし、徹底的にやり抜く。とことんやり抜く。そうすることで、服はパワーを宿していた。

トレンドの真逆を猛進するこれらの服は、現代を無視して作られたものではない。それは冒頭で紹介した三原の言葉が物語っている。三原は現実を直視した上で、自身の記憶を遡り、そこに現在の自分の視点から見た解釈を加え、コレクションを製作した。

たとえトレンドと逆行するデザインであっても、トレンドを知った上で作り、そして真逆にとことん突き進むことで、トレンドには乗らないトレンドウェアが完成するのではないか。それはトレンドというよりも、コンテクストと言える。

ファッションは時代と密接に関係した生き物。時代の中心が好きではないなら、時代の中心を頭と心に叩き込み、情熱と創造を武器にカウンターを打ち込む。メゾン ミハラヤスヒロに恐れはない。あるのはクリエーションへの圧倒的欲求だけだ。

Official Website:miharayasuhiro.jp
Instagram:@miharayasuhiro_official

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