太陽の光で布に色をもたらすジヨンキム

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AFFECTUS No.501

世界で最も注目を集めるファッションコンペ「LVMH Prize」が、2024年のセミファイナリスト20ブランドを発表した。過去にニュースレターでピックアップしたブランドは、「コッキ(Khoki)」「デュラン ランティンク(Duran Lantink)」「ホダコバ(Hodakova)」「マリー・アダム=リーナエルト(Marie Adam-Leenaerdt)」の4ブランドだったが、セミファイナリストの一覧を見てみると、初めて知るブランドの名が多い。デザイナーの出身国は18カ国に及び、LVMH Prizeの新しい才能を発掘しようとする意識が、これまで以上に高まっているように思えた。

そこで今回はセミファイナリストの中から、韓国ブランド「ジヨンキム(JiyongKim)」を紹介したい。近年の韓国は、国際的に活躍する若手ブランドが登場しており、新しい才能を輩出する場として注目の存在だ。

それでは、ジヨンキムの概要について触れていこう。

デザイナーの名は、ブランド名と同じくジヨン・キム(Jiyong Kim、ブランド名では「JiyongKim」と真ん中のスペースが消える表記)。韓国で生まれ育ったキムは高校卒業後、日本に渡って文化服装学院でファッションを学ぶ。その後、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)に進み、卒業後は「ルメール(Lemaire)」でデザイナーとしてのキャリアをスタートさせ、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)時代の「ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)」ではデザインアシスタントを務めていた。

キムが注目されるきっかけとなったのは、BA(学士)卒業コレクションで発表した “Daylight Matters”だった。製作期間が1年半に及んだコレクションは、素材の実験と言えるデザインだ。デッドストックやヴィンテージの生地を使用してアイテムを製作し、完成した衣服をマネキンに着せつけたり、金網にくくりつけるなどして、太陽の下に最長で5ヶ月間放置した。数ヶ月間、太陽光や雨、風にさらされたファブリックは、シャンブレー調というべきか、それともモアレ調というべきか、色が淡く移り変わる独特の色褪せた表情を生む出す。

キムはファッション界から毎年大量排出される廃棄物に疑問を持ち、サステナビリティへの強い意識を持って製作に臨む。デッドストックなどの生地を使用した卒業コレクションは、キムの原点でありDNAと言えるデザインだろう。また、化学物質や水を大量消費することなく、太陽の光を使って素材の色を表現する手法は、ブランドの代名詞となっている。

原料の選定から紡績、布地の組織など、素材開発をコレクション製作の柱に掲げるブランドは珍しくない。キムも素材にこだわるが、一からオリジナルで開発するわけではなかった。ジヨンキムは、すでに存在しており、だけど価値がないとされている布地を使い、自然の力を活用して色や柄を表現するスローなファッションデザインが特徴だ。

素材に力を注ぐ際は、服のフォルムとディテールはシンプルに作るケースも多いが、キムはパターンワークにも工夫を凝らす。デニムウェア、フーディ、カーゴパンツ、トラックジャケット、開襟シャツといった、ストリート感あるカジュアルウェアがキムの基本要素。服の輪郭自体はシンプルに作り、切り替え線やドレープで服の構造にデザイン性を出していく。

キム得意の自然染色、太陽光によって色褪せを起こしたダウンジャケットは、パターンワークが非常に個性的だ。前身頃の両サイドは、テーラードジャケットのようにパネル切り替えせ線を入れているが、クラシックウェアよりも曲線の角度が鋭く大胆。後ろ身頃に目を移すと、楕円を描くパネルが中央に挟み込まれ、フォルムに丸みを帯びさせる効果を発揮していた。このようにジヨンキムのアイテムは、服の構造が装飾的役割を果たす。

素材と形の双方を作り込むキムの手法は、コレクションにどろっとした印象を植え付け、明るく華やかなファッションとは対極のデザインを完成させていた。しかし、おどろおどろしい様子が、ブランドの個性を生んでいる。誤解を恐れず言えば、ジヨンキムは「美しい泥」と呼びたい服を作っている。

自然との共生で誕生した素材を、ストリートな服に仕立てたコレクションは、非常にダークトーン。しかし、製作背景にあるのはサステナビリティへの強い思い。外観だけで判断してはいけない。ファッションも人間も、背後に隠された優しさが潜むことだってあるのだ。

〈了〉

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