エムエフペンは肯定する

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AFFECTUS No.504

今日はファッションデザインの文脈であったり、モードの潮流といった視点からは離れたい。単に、今自分が着てみたいと思うメンズブランドについて、感じるがままに書いていきたいと思う。ファッションを書くことから切り替えを図りたい時は、別の視点でファッションについて書く。これが私の気分転換になる。

人間の好みというのはなかなか変わらないものだ。しかし、そうは言ってもそれなりの歳月が経てば、多少の変化は出てくるもの。昔はそこまで興味がわかなかったワークウェアやスポーティな服に惹かれるようになったのも、自分の感覚が変化した証拠だろうし、ストリートカルチャーに縁のない私だが、ストリートウェアにもファッション的魅力を感じ始めた。

感覚の変化が芽生えた今の私が惹かれたブランドは、2016年設立のコペンハーゲンブランド「エムエフペン(mfpen)」だ。このメンズウェアのクリーンなやさぐれ感がいい。私は無地の生地でベーシックな色を使った服が好きだが、綺麗に整えられ過ぎると昔から疲れてしまう癖があった。真っ白なシャツであっても洗い晒しのまま、フロントボタンを留めず、真っ白なTシャツの上からただ羽織るだけ。そんなふうに、力を抜いて服を着ることが好きだ。

崩したクリーンな装いに今求めるのは、ちょっとしたアウトロー感。エムエフペンの服は、非常にシンプルだ。言ってしまえば、ベーシックウェアをブランドの視点で解釈したデザインと言える。そのデザイン自体、決して珍しいものではないが、それでも惹かれてしまうアウトロー感を持っていたのがエムエフペンだった。

いや、アウトロー感と述べるのは大げさだろう。シルエットは比較的スリムだが、服を着たモデルたちからはルーズな雰囲気が漂う。ネクタイを巻いたスーツ姿のルックを見たら、通常はクラシックなイメージがわいてくるはず。しかし、エムエフペンは違う(あくまで私の場合だが)。コペンハーゲンブランドのスーツを着たモデルの姿に、私は怠惰なスウェットの上下を着た人間を重ねてしまう。

ストライプシャツ、ツータックパンツ、ステンカラーコート。いずれもメンズウェアの王道を、エムエフペンは綺麗に完成させる。服そのものを見ればシンプルでクリーンにもかかわらず、コレクションに登場するモデルたちはどこか気だるそう。上質ではあるけれど、高級ではない。綺麗だけど、美しさとは違う。そんな曖昧な感覚が非常に心地よいエムエフペンの服たち。ああ、なんていいのだろう、この几帳面さから離れた空気は。

服は「マーガレット ハウエル(Margaret Howell)」に近しいものがある。だが、ハウエルと同じ文脈であっても、枝分かれしている。エムエフペンのジャケットやトラウザーズは、ハウエルの服をストリートな視点から作られた服とも言えよう。

エムエフペンを着た人間に、ストイックな力強さは皆無。できることをやっていく。そういう生き方をしている男たちが見えてくる。私は頭の中に描かれた人間像に共感する。やりたいことをやって結果を出していく。それが理想の生き方なのかもしれない。しかし、やりたいこととできることが、必ずしもイコールではないのが人間だ。自分は、やりたいこととできることが異なる人間だと知った時、あなたはどうするだろう?

私なら「できること」を選ぶ。できることを実践し、その結果生まれた成功に喜びを感じる人生も、間違ってはいない。今の私は、ファッションを書くことを仕事にしている。まさか、自分が言葉を仕事にするとは思わなかった。服作りが好きな私は、今でも服を作りたいという思いは確かにある。

一方で、ファッションの価値、魅力、個性を言葉にして表現する能力と技術をひたすらに磨き、圧倒的高みに到達したいという気持ちも強い。それもファッションに限らず、あらゆるモノ・ブランド・人間の個性を、言葉で表現してみたいとも思っている。

思い描いていた道とは外れた道を歩いてきた人間を肯定する優しさ。私の欲しかった優しさを、エムエフペンは服に仕立てて見せてくれているのだ。北欧の地から生まれた服は温さを届けてくれる。

〈了〉

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