トミー ヒルフィガーによるプレッピーとストリートの邂逅

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AFFECTUS No.505

チノパン、ボーダーTシャツ、アワードジャケット。ファッションの名作がスタイルを彩るアメリカンスタイルには、普遍の美しさがある。今もっともアメリカの伝統をキレよく仕上げるブランドは、ここなのではないか。そう思えるほど、現在の「トミー ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)」には抗いがたい魅力が発散されている。

爽やかな淡いブルーのシャツを着たモデルは、センタープリーツのパンツを穿き、ポケットに両手を入れて歩いていく。端正なシャツのシルエットに対して、パンツのシルエットはルーズにたるみ、裾はだらしなくクッションを作り、頭に被るグレーのキャップがカジュアル濃度を一気に高める。シャツの襟を主張する着こなしのモデルが着るダブルジャケットは、肩幅が広くオーバーサイズに作られ、深味あるネイビーのパンツは脚の動きに従って布がたわむ。キャメルのケーブルニットにベージュのパンツ、ロングレングスのトレンチコートを羽織ったモデルは、頭にキャップを被り、視線をやや下に向ける。

トミー ヒルフィガーは、王道のアメリカファッションを王道には作らない。加えられたのはストリートの香り。プレッピーファッションが、ストリートのルーズシルエットと融合し、キャップが最後の仕上げを務める。

1985年設立のニューヨークブランドが、コレクションシーンの話題をさらうことはないのかもしれない。だが、それがどうした。トミー ヒルフィガーはシーズンを重ねるたびに、若々しく瑞々しく変貌していく。2月9日に発表された最新2024AWコレクションは、以前にも増してキレを増す。

私は数シーズン前から、トミー ヒルフィガーの変化が気になっていた。

「いったい、どうしたのだ、何が起こったんだ」

ブランドのファンから怒られてしまいそうだが、戸惑うぐらいにトミー ヒルフィガーがカッコよく見えた。その鍵となっていたのは、今コレクションと同様にストリートのエッセンスだった。

プレッピーとストリート、若者の装いを代表する二つのファッションは、まったく異なる源流を持つ。名門私立高校プレパラトリースクールに通う、良家の子息や令嬢たちが着る上品な伝統スタイル。それがプレッピーである。一方、ストリートはヒップホップやスケートカルチャーに端を発する、グラフィカルでルーズな服装だ。誤解を恐れずいえば、双方は階級の異なるファッションと言えよう。

だが、このように成り立ちが異なる二つのスタイルだが、ある共通点を持つ。プレッピーは溌剌とした若者たちが着るがゆえに、伝統を伝統のままには着ない。明るい色を好み、上質な服を着くずすことを特徴とする。そしてストリートは、ボディラインを怠惰に形作るルーズさこそが最大の魅力。調和には目を向けない。この1点が、異なるはずのファッションを結びつけ、フレッシュな魅力を放っている。それが、現在のトミー ヒルフィガーだ。

そして、今回の2024AWコレクションでは若々しさにシックな香りが溶け込んでいた。色使いが落ち着いたトーンになっていたのだ。ベージュ、ネイビー、グレー、キャメル、ホワイト、いずれも静かでベーシックな色ばかり。私がトミー ヒルフィガーの変化に気がついた時、コレクションの色使いはもっと明るく、開放的な印象を受けたのだが、先日発表された2024AWコレクションは、シルエットはストリートのままに、色によるインパクトが控えられていた。

成人となり、大人のファッションに魅力を感じ始めた若者たちが、それまで関心の薄かった伝統の着こなしに新鮮な魅力を感じ始める。だが、服のシルエットだけはこれまでの自分が好きだった形に留めておきたい。そんな微妙な心情が浮かび上がってくる、フレッシュなトラディショナルウェアがランウェイを歩いていく。

若い才能が見せる新しいコレクションはパワフルでクールだ。成熟したデザイナーが見せる新しい変化には、驚きと発見がある。ファッションの可能性を示してくれたトミー ヒルフィガーに、私は感謝を伝えたい。

〈了〉

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