大転換のラバンヌ

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AFFECTUS No.508

2023年6月、ブランド設立60周年を控えた「パコ ラバンヌ(Paco Rabanne)」は、ブランド名を「ラバンヌ(Rabanne)」に変更することを発表した。それに合わせてブランドロゴも小文字で「rabanne」と表記し、クールでモダンな空気を漂わすデザインへ。服装史に名を刻む伝説のブランドが変えたものは、ブランド名だけではない。2月29日にパリで発表された最新2024AWコレクションは、創業者パコ・ラバンヌが考案したフューチャリスティックなシグネチャースタイルからの転換も図られていた。

全34ルックのコレクションを見終えて感じたのは、「トラッド x 民族による近未来トライバルウェア」というものだ。コレクションの主役と言える素材が、柄のテキスタイルであり、なんといってもチェック柄が際立つ。

黒などのダークトーンからイエローや茶系を用いたカントリーなものまで、様々な格子模様が、様々なアイテムの生地として使われている。ギンガムチェック、千鳥格子、タータンチェックで作られたジャケットやパンツには、トラッドな香りがふんだんに漂う。加えてツイード素材のジャケットとスカートも登場し、トラディショナルウェアの空気はいっそう濃いものになっていく。

通常なら、このような素材使いはクリーンなトラッドスタイルを完成させるだろう。しかし、ラバンヌはスパイスを加えて、クリーンの文脈から外すのだった。そのスパイスが民族調である。真っ先に浮かんだイメージは、ネイティブアメリカンの衣服。幾何学柄やフリンジが、クリーンな服とは異なるプリミティブな魅力を放つ。

トラッドと民族という二つの異なるファッションをつなげるのが、ラバンヌ伝統の近未来感だ。冒頭で2024AWコレクションは、フューチャリスティックなスタイルからの転換が図られたと述べたが、近未来感デザインがスタイルとしてではなく、異なるファッションを結びつける橋渡しの役割を担っていた。コレクションにおける近未来デザインの役割が、以前から変わったということだ。つまり「「トラッド x 民族」における「x 」の役割を果たすのが、ラバンヌ伝統の近未来デザインということになる。

1934年、スペインのバスクで生まれたパコ・ラバンヌは17歳でパリに渡り、1966年に自身のブランドを設立する。彼のスタイルを特徴づけたものが、金属やプラスチックを素材に使用したドレス群だ。ラバンヌ登場以前の1950年代は、ニュールックを発表した「クリスチャン ディオール(Christian Dior)」が時代を牽引し、クラシカルなファッションが輝いた。

「バレンシアガ(Balenciaga)」の独創的フォルムも、クラシックの文脈に乗ったものであり、「ジバンシィ(Givenchy)」はクラシックにミニマルな視点を取り入れて、シャープな美しさを持つオートクチュールを確立する。「イヴ サンローラン(Yves Saint Laurent)」は、クリスチャン ディオール在籍時にトラペーズ(台形)ラインのミニドレスを発表して、1960年代に訪れる未来スタイルを予見し、モンドリアンルックではアートとの融合も果たし、ファッションの歴史を前進させた。

クラシカルな美しさが主流となった1950年代から1960年代に時代が移ると、パコ・ラバンヌがアルミニウム製ミニドレスで、世界のファッションと価値観に変革をもたらす。金属製の長方形を繋ぎ合わせたメタリックなミニドレスは、上質で高級な生地で作られた従来のオートクチュールとは一線を画し、異質に輝く1着のドレスが、パコ・ラバンヌを伝説のデザイナーへと昇華させたのだった。

そして2024年の今、21世紀のラバンヌはスタイルではなく姿勢で、ブランドの歴史を未来に進める。トラッド x 民族の掛け合わせを、光沢が煌びやかなマテリアルや金属ボタン、ネックレスが繋ぎ合わせるスタイルは、原始的で伝統的な魅力を併せ持つ近未来トライバルウェアへと発展した。クリエイティブ・ディレクターのジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena )が伝える。ラバンヌの輝きは、いつになっても色褪せず眩しいことを。

〈了〉

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