フェティコは成熟と気品をドレスにして伝える

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AFFECTUS No.513

若者に熱狂的に受け入れられたファッションが、時代の服装に影響を与え、街中の風景を変えていく。そんな事例が、ファッション史を振り返ったときに散見される。1960年代のコスモルックや1970年代のヒッピー、2010年代のストリートウェアといったように、若者の心を捉えたファッションは時代を動かしていく。

一方でファッションには、成熟した大人のエレガンスが魅力的な一面もある。舟山瑛美の「フェティコ(Fetico)」に袖を通せば、佇まいはもちろん周囲の空気にも気品を漂わせる。ただし、フェティコはただシックな服というわけではない。ボディラインを滑らかに強調するシルエットや、黒と白を主役にしたカラーパレットはセクシーだ。

ファッションで「セクシー」というと、大胆な肌見せなどエロティックなデザインが連想されるかもしれない。だが、3月に発表されたフェティコ2024AWコレクションは、逆転の発想で服に色気をもたらす。

コレクションには胸元を深くえぐるVネックのノースリーブドレス、オフショルダーのブラックドレス、肌を透かすトランスペアレント素材も使われているが、コレクションの主役というほど数は多くない。要となっているのは、ブラック&ホワイトの色使いとボディコンシャスなシルエットだ。

ブラウンのスーツルックに注目してみよう。ワイドパンツに合わせられたジャケットはウェストが急激にシェイプされ、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)の代表作バージャケットを連想させる。ノーカラージャケットの着丈は、ヒップを完璧に覆い隠すロング丈で、ショルダーラインは力強く、マスキュリンな仕立てだ。カーブが艶かしい腰と、フラットなラインが逞しい肩のコントラストが、女性の曲線美を強調して色気が漂う。

黒いハットを被ったスタイルなど、フェティコにはダンディズムがしばしば挟み込まれる。一方でコルセットやビスチュエといった、女性の造形美を模ってきたアイテムをアレンジして、各アイテムにディテールやシルエットとして展開し、ウィメンズウェア伝統の美しさの表現も欠かさない。

2024AWコレクションのフェティコには、ビッグシルエットの服がほとんど見られない。セーラーカラーの黒いロングコートは、袖が太幅で作られてはいるが、身頃のシルエットはスレンダーで非常にドレッシー。

ファーストルックで登場した、白いセーラーカラーのウェスト切り替えのロングドレスや、先述のセーラーカラーで衿元をデザインした黒いロングコートのように、フェティコは肌を見せることを抑えた服の方がグラマラスに感じられ、モノトーンカラーが服の色気を増幅させていく。

ランジェリーライクな素材とカッティング、パフスリーブやシャーリング、フリルとったウィメンズウェアではお馴染みの素材とディテールが多用され、フェティコは女性を強調する。舟山が掲げるブランドコンセプトは「The Figure:Feminine(その姿、女性的)」。ジェンダーレスの概念が浸透した今だからこそ、フェティコのコンセプトと、そのコンセプトが具現化されたドレスとコートが新鮮に映る。また、スタイルの軸がカジュアルではなくドレッシーという点も目を惹く。

ファッションは常に新しさが注目される。新しさこそ正義、今とは新しさを意味する。それがファッションだと言わんばかりに。だが、未知のスタイルだけがファッションの魅力ではない。受け継がれ、磨き続けられてきた伝統のファッションがある。女性美という言葉は、もしかしたら現代では死語なのかもしれない。

けれど、だ。女性美というエレガンスはいつの時代になっても、人々の目と心を魅了する。60年も前のオートクチュールドレスの写真を見ると、うっとりとしてしまう。フェティコは古典の美しさを受け継ぐ。そのスタイルは、大人だけでなく若者も魅了するだろう。ファッションの美は世代を超える。フェティコはこれからも、クラシックを愛し続けるに違いない。

〈了〉

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