AFFECTUS No.514
2023SSコレクションを最後に、自身のブランド27年の歴史に幕を閉じたラフ・シモンズ(Raf Simons)。現在、シモンズの最新ウェアを体験できるブランドは、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)と共同クリエイティブ・ディレクターを務める「プラダ(Prada)」しかない。
新しい「ラフ シモンズ」が恋しくなるが、ブランド「ラフ シモンズ」の最新コレクションを着ること・見ることがもう叶わないなら、過去のコレクションを振り返り、視覚と感覚を少しでも満たそうと思う。本日は、1年間の休養を経て復活を果たした「ラフ シモンズ」2001AWコレクションを取り挙げたい。 “Riot Riot Riot “という名で知られる、このコレクションをご存知の方もきっと多いだろう。
カモフラージュ柄のボンバージャケットは、2001AWコレクションを象徴するアイテムであり、カニエ・ウェスト(Kanye West、現在はYe)が着用して驚異的に価値が上がり、47,000ドル(2018年当時のレートで約535万円)で取引されることもあった(Hypebeast「Kanye West や Drake も着用した Raf Simons の激レア ボマージャケット が販売中」より)。私は当時、このボンバージャケットを店頭で見たことがあるが、ここまでの人気と価格のアイテムになるとは夢にも思わなかった。
2001AWコレクションに触れる前に、当時のシモンズの状況を話しておきたいと思う。シモンズは1995AWコレクションでデビューすると、スレンダーなシルエットとスクールテイスト、そしてロックミュージックを背景にしたメンズスタイルが爆発的人気となり、瞬く間にスターデザイナーへと駆け上がった。
しかし、1999AWコレクションを発表すると、2001年1月に突如休養宣言する。いったい休養期間がいつまで続くのかとファンは不安に襲われるが、1シーズンの休養のみで、シモンズは再始動する。シモンズは休養理由について、復帰後に『メンズノンノ(Men’s Non-No)』2002年9月号のインタビューで語っており、その言葉をここに引用したい。
「休業した理由は、ブランドとしてのビジネスが大きくなるにつれ、システム化したデザイナーの仕事に疑問を感じ始めたこと、いろいろな要素が複雑に絡み合っているファッションに嫌気がさしたこと。この8ヶ月の間に、自分が本当にやりたいことについてじっくり考えられた」
『メンズノンノ(Men’s Non-No)』2002年9月号より
復帰を果たしたシモンズはいったいどんな服を発表するのか。そう思いながらも、多くの人たちは休養前と同じく、少年の繊細な内面を表したスリムな輪郭のスタイルを想像していたのではないか。少なくとも当時の私はそうだった。しかし、復帰コレクションの全容が明らかになると驚きに襲われる。これまでのシモンズと対極のファッションが発表されたのだ。
休養前の「ラフ シモンズ」といえば、テーラードジャケットやシャツをシャープなカットで仕立てた服が思い浮かぶ。だが、2021AWコレクションでは、フードウェア、ストライプ生地のタートルネック、ミリタリーブルゾンが数多く登場し、アイテムの多くがオーバーサイズシルエットで作られていた。しかも何着も重ね着するスタイリングによって、単に大きさだけでなく厚みさも伴うシルエットが完成していたのだ。
袖がカットオフされたフーディは、ロング丈&ワイド幅のシルエットでエッジを効かせる。ストールを顔に巻きつけ、ミリタリーブルゾンを着用したスタイルはテロリストの姿を彷彿させるものだった。
そして、それらオーバーサイズのミリタリーウェアやストリートウェアには、「ソニック・ユース(Sonic Youth)」や「ジョイ・ディビジョン(Joy Division)」のライブのフライヤーなどがパッチワークされ、ウェールズのロックバンド「マニック・ストリート・プリーチャーズ(Manic Street Preachers)」の失踪したギタリスト、リッチー・エドワーズ(Richey Edwards)の名前がインビテーションに用いられ、音楽性がクラフトなテクニックによって破壊的に表現された。
ロングコートの上からボンバージャケットを重ね着するスーパーレイヤードとオーバーサイズのスタイルは、今見ても斬新な迫力に満ちている。この “Riot Riot Riot “が発表された2001AWシーズンは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)による「ディオール オム(Dior Homme)」がデビューしたシーズンでもある。シモンズがデビューすることで、メンズファッションはスレンダーシルエットが人気を呼び、その後、スリマンがロック&スキニーによってメンズシルエットの細さを加速させて世界を席巻するのだが、時代と時代の間隙を突くように、2001AWシーズンにシモンズは21世紀最初のビッグシルエットと言っても過言ではない、未来のコレクションを発表した。
自ら築きあげた世界を否定し、その後に訪れるスキニー全盛の時代のシルエットを否定する、シモンズのニュースタイルは絶賛され、今では名作と言われるほどの価値と人気を誇る。
タイトな服が特徴で、そのスタイルが人気だった「ラフ シモンズ」とは異なり、当時トレンドのシルエットとも異なる2001AWコレクションに、なぜあれほど心を動かされたのか。正直言ってわからない。私にとっても、あの体験は初めてのことだった。ただただ覚えていて、そして今伝えることができるのは、あの心の底から湧き上がった衝動、激しく揺さぶられた心の波動だけだ。
2001年、21世紀を迎えたばかりの年に、20年以上歳月が経過した時代の人間の心も揺さぶるコレクションを発表したラフ・シモンズ。過去のコレクションを見ても視覚と感覚は満たされず、寂しさに襲われるだけだった。あの服の未来を見ることは、もう二度と叶わない。
〈了〉