解放と自由のシュシュ/トング

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AFFECTUS No.517

不思議なブランド名の響きが、いつまでも耳に残る。「シュシュ/トング(Shushu/Tong)」は、ウィメンズウェア伝統の美意識「カワイイ」を、モードの文脈で探究していく。2015年、上海で設立されたブランドのデザイナーは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのウィメンズウェア修士(MA)を卒業したリュウシュ・レイ(Liushu Lei) とユートン・ジャン(Yutong Jiangis)。二人は、「シモーネ ロシャ(Simone Rocha)」と「ガレス ピュー(Gareth Pugh」で経験を積んだのちに、自身のブランド「シュシュ/トング」を開始するのだった。

卸先セレクトショップは「ディエチ・コルソ・コモ(10 Corso Como)」、「ブラウンズ(Browns)」、「ドーバーストリートマーケット(Dover Street Market)」のロンドン・ロサンゼルス・ニューヨーク・シンガポールなど、世界的知名度を誇るショップばかり。ショップのリストが、このブランドの価値と個性を物語る。

4月に上海で発表された最新2024AWのコレクションは、「シュシュ/トング」の特徴がわかりやすく現れたデザインだ。

パープルのシャツの上に着るのは杢調のグレーニットで、非常にシックな装い。その上半身に対して、ボトムはフリルをふんだんに用いたライトブルーのスーパーミニスカート、シャツと同じ色のパープルのタイツを穿いている。

コンサバな印象を抱くミドル丈のワンピースは、ウェストシェイプが効いたシルエット。胸元はランジェリーライクなブラを彷彿させるカッティングで仕立てられ、ワンピースの下には杢調のライトグレーに染まった、ノースリーブポロニットがレイヤードされている。そして、袖部分にはパープルのニットスリーブがロンググローブのように両腕にはめられ、肘付近まで袖丈がまくられていた。

幼い女の子だったころの記憶と、大人の女性に成長した現代の自分の記憶が混じり合うように、ガーリーとコンサバがバランスを崩して一つになっていく。この「かわいいカオス」こそがシュシュ/トングの個性である。

ピンクのバレエシューズとオフホワイトのタイツ、そして、裾をフリルでボリューミーに飾りつけたミニスカートのボトムスタイリングは、ガーリーを超えて赤ちゃんにまで年齢を遡ったように、幼さが迫ってくる。

ジェンダーレスは普遍的概念としてファッションデザインに広がったが、近年のコレクションを見ているとエイジレスと言っていい、年齢の境界を消失させたデザインが散見される。

4月16日に「ファッションスナップ(FASHIONSNAP)」で公開された「アレッサンドロ・ミケーレが恋しかった 燦然たる来歴を振り返る 」でも、私はアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が「グッチ(Gucci)」時代に発表していたメンズウェアには、エイジレスの特徴があることを述べた。

ファッションは周りの視線を気にせず、服を着ることは難しい。だけど、年齢によって自分の好きなもの・好きなことを控える必要はない。子どものころに好きだった色と服を、大人のあなたが着てもいいじゃないか。

「どんなふうに自分は見られるのか」。

その意識は、ファッションを体験する上で避けられないものだ。

「いい年して、そんな服着るの?」

そんなふうに思われて、気持ちのいい人間などいないだろう。

だが、時にはこう思って、ファッションを全力で楽しんでもいいはずだ。

「誰に何を言われても、今日の私は、私の好きな服を好きなように着る」。

「シュシュ/トング」は、ファッションの持つ自由を肯定する。かわいさの後ろにあるのは、強く逞しい意志。ガーリーなミニワンピースが、世の中の価値観から精神を解き放つ。

〈了〉

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