サカイはファッションの夢を形にする

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AFFECTUS No.522

服を着るのではなく、エネルギーを着る。「サカイ(Sacai)」のコレクションには、そんな表現が似合う。近年のサカイは、得意のハイブリッドスタイルをこれまでより抑制しつつも、これまでと何一つ変わらないパワーがルックから滲み出している。最新2024AWコレクションは、何着もの服が重層的に一体化したデザインに代わり、1枚の服のバランスを大胆に崩すパターンメイキングが主役となっていた。

ファーストルックは、着物の抜き襟のように両肩をずり落としてスタンドカラーのブルゾンを着用。黒い上着は着丈が非常に短いのだが、左右の袖幅はフェミニンなミニレングスには不釣り合いなほど極端に広い。次に登場のセカンドルックも黒いブルゾンの袖幅がやたらに広く、服を着るというよりも、服を上半身の前面に留めつけている印象を覚える奇妙なフォルムだ。

本来ならアヴァンギャルドなはずのデザインにかわいらしさを実感するのは、多用されたAラインシルエットとミニレングスが、1960年代のコスモコール・ルックを彷彿させるからだろう。ピエール・カルダン(Pierre Cardin)は、幾何学・円・球体をモチーフにしたカッティングによって、ポップな色使いとの相乗効果で、人類が初めて月面着陸を成功させた1960年代にふさわしい未来派ファッションを誕生させた。コスモコール・ルックは、シックな1950年代とは完全に方向性が異なるファッションで、当時としてはアヴァンギャルドなものだった。

だが、2024年の今、サカイが発表したコレクションはコスモコール・ルックを感じさせても、アヴァンギャルドよりもリアリティが先立つ。デニムジャケットやピーコート、ワークテイストのブルゾンやニットなど、ワードローブに欠かせないベーシックを基盤にアンバランスなパターンメイキングを展開することで、かつてはフューチャリスティックだったシルエットを現実世界に押しととどめている。

また、コレクションが後半に差し掛かると、マスキュリンな側面が顔を覗かせるのが、2024AWコレクションの特徴だ。黒を中心にした色使いと、ウィンドウペンチェックやピンストライプなどのクラシックな素材が登場し、サカイの世界はフェミニンとマスキュリンを混合していく。

ウィンドウペンチェックのテーラードコートは、両肩の肩線からはギャザーが、テーラードラペルの裏側から折り畳まれたプリーツが裾に向かって揺らぎ、メンズウェアとウィメンズウェアの伝統が同化している。異なる要素が一つになるデザインはサカイの真骨頂だが、以前よりも複雑さは控えられてシンプルだ。

ピンストライプ素材で仕立てられたケープ状のロングコートも、袖部分には無地の黒い生地が使っているが、このアイテムにおけるミックス感の要素は、異素材の組み合わせと、シックなジャケットとケープの一体化だけにとどまっている。以前のサカイなら、さらにもう一つ、いや二つほどの要素が重なっていただろう。

サカイは、ファッションに対する欲望を形にする。ジャケットを着たい、ミニドレスを着たい、ニットを着たい。スタイルはクラシックもフェミニンも好み。様々なファッションを着たいという欲望を、サカイは否定しない。着てみたい服がたくさんあるなら、それをすべてを着ればいい。時間も場所も選ぶ必要はない。着たい時に着たい服をいつでもどこでも。それは欲望というよりも夢と言った方がいい。サカイが形にするのは、ファッションの夢すべてだ。

ラストに登場したモデルは、ノースリーブの黒いテーラードジャケットを着ていた。裾はアシメントリーに形作られ、丈が一番長い箇所では床に届きそうだ。黒いサイハイブーツを履き、モデルは優雅に力強くショーの最後を飾る。サカイの夢はまだまだ続いていく。

〈了〉

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